規則性のスキマを狙う。転換効率を高める「ハック思考」の身につけ方
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
私たちを取り巻く世界のルールは、とてもシンプルにできている。
『ハック思考~最短最速で世界が変わる方法論~』(須藤憲司 著、幻冬舎)の著者は、そう記しています。
仕事でも勉強でも、あるいはスポーツにおいても、人はかけがえのない“時間”にお金を投じ、なんらかの成果を得ようとしているもの。
個人だけではなく法人にしても、従業員の時間とお金を投じて、なんらかの成果を得ようとしているわけです。
すなわち、それは世界のルール。
同じインプットから大きな成果を得られるように転換効率を劇的に高めることをハックと呼びます。この本では、どうやってあなたが世界をハックして、最短最速で成果を劇的に高めるか? について、書いていきたいと考えています。(「3分でわかるこの本の概要」より)
ご存知の方も多いと思いますが、著者はリクルートで活躍したのち、2013年に米国でKaizen Platform, Inc.を創業した人物。
現在は日本、US、韓国、台湾の4拠点で事業を展開していますが、それらの実績もハック思考で実現したのだとか。
そんな著者によれば、「世界をハックするための2ステップ」は以下のとおり。
→世界を違った角度から見つめ、他人が気づいていない規則性や法則に気づく
→その規則性や法則を構成するシステムのスキマに介入する
(「3分でわかるこの本の概要」より)
そしてハックしていく際に重要なのは、知識や技術や理論以上に、実験の経験やトライアンドエラーを通じて身につけた暗黙知や皮膚感覚なのだそうです。
偉人のマンガで見つけた世界をハックする方法
著者は幼いころ、歴史上の偉人の伝記マンガが大好きだったといいます。
織田信長、キュリー夫人、エジソン、ニュートン、ライト兄弟、リンカーン、最近ではスティーブ・ジョブズなどもラインナップに加わっていますが、偉人の功績をマンガでわかりやすく解説したそれらは、誰しも手にした経験があるのではないでしょうか?
ところで著者は当時、それらのマンガには共通したストーリーがあることに気づき、以後はそれを確認するために読んでいたのだといいます。
「ああ、やっぱりこの人も同じだ」というように。
この歴史上の偉人のストーリーに共通していたのは、「世界を、世の中の人とは違った目で見つめていて、その視点が正しいと後から世の中の人が気づいた」ということでした。つまり、歴史は幼い僕に「世界を疑ってみたほうがいい」ということを教えてくれたのです。(37ページより)
違った目で世の中を見つめることは、悪いことではない。なぜなら世の中一般、大多数の人が信じていることがまったく違うなどということは、これまでにもたくさんあったのだから。
したがって、これからも、そういう出来事が起きる可能性はいくらでもあるはずだということ。それが、物心ついてから最初の学びだったというのです。
そこで以後、著者は一貫して「世界を違った目で見つめよう」と努力してきたというのです。
世の中の常識とは異なる目で世界を見てみると、世の中の人が信じている因果関係とは異なる因果を見つけられるときがあります。こういうときはシメたもので、絶好のチャンスだと思うのです。なにせ、周りの皆は気づいていない因果関係なのですから。 (37ページより)
その因果関係のスキマを狙ってハックし、身の丈以上の成果を得るというプロセスを繰り返してきたということです。(36ページより)
ハックするとはどういうことなのか?
1. 世界を違った角度から見つめ、他人が気づいていない規則性や法則に気づく
2. その規則性や法則を構成するシステムのスキマに介入する
著者がマンガに登場する歴史上の偉人たちから著者が学んだことは、このたった2つのステップだったそうです。
しかも、この方法だけで起業し、“飯のタネ”にしているのだといいます。
特殊な能力を持っているわけではなく、コードも書けない、デザインもできない、営業も下手なら、マネジメントが得意なわけでもないというのです。
エンジニアでもないにもかかわらず、テクノロジースタートアップを経営し、世界の名だたる企業のデジタル戦略を一緒に考えるパートナーとして選んでもらっている理由は、この2つのステップの繰り返しを通じた言語化しづらい経験値が身についているからだということ。(38ページより)
世界を違った目で見ることで、世界を変える
売上数兆円の大企業から、これから成長させる新規事業まで、これからのデジタル化する世界のビジネスで生き残っていくために、僕はグロースハック(成長をハックする)と呼ばれる方法を使って、事業成長そのものを一緒に実現する会社を経営しています。(40ページより)
すべて社内で実行しているわけではなく、用意したプラットフォーム上に1万人以上のグロースハッカー(エンジニア、デザイナー、データサイエンティスト、クリエイター、プロジェクトマネージャー、品質管理エンジニアなど)と呼ばれる多数のデジタル人材を抱え、さまざまな企業のプロジェクトに取り組んでいるわけです。
いわば既存の枠組みを超え、自在にハックしていくためのプラットフォームをつくっているのです。
とはいえ、あくまでもそれは手段であり、大切なのは「目的の設定」。
「なんでもできるから、なんでもやればいい」ではなく、「なにをしたいのか?」「そのためにデジタルをどう使うのか?」を考えながら、さまざまな才能を巻き込み、実行まで支援していくのが著者の仕事だということです。(39ページより)
「ハック思考」に基づき、さまざまなメソッドを提示した本書には、これからのビジネスのあらゆる問題を解決してくれる可能性があります。
従来的ではない新たな視点を身につけるために、参考にしてみてはいかがでしょうか。
Photo: 印南敦史
Source: 幻冬舎