<東北の本棚>来年観戦へ楽しさ増す
[レビュアー] 河北新報
障害者スポーツは、健常者のそれとはまた違った独自の魅力を持っている。中でも車いすテニスは、車いすバスケットなどと並ぶ人気種目。本書は東京パラリンピック女子代表候補である主人公・君島宝良(たから)と、競技者としての成長を見つめる親友の山路百花(ももか)らとの触れ合いを描く。「パラ・スター Side百花」の続編。
テニスに打ち込んできた宝良を襲った、高校時代の交通事故。絶望の淵にあった彼女に光明をもたらしたのは、百花に連れ出されて観戦した車いすテニスの国際大会だった。以来、5年間でパラ代表を射程に入れるまでに躍進。しかし、このところ壁にぶつかったように不振が続いていた。
一方、百花は車いすメーカー・藤沢製作所に就職し、多くのユーザーの要望と向き合い技術を磨いていく。そんな中、宝良は競技用車いすの製作を同社に依頼。技術者たちは試行錯誤しながら、アスリートの動きに即応する理想の一台を作り上げていく。
後半は、東京パラを控えた国際大会での戦いぶりを軸に、手に汗を握る展開が続く。国内や世界ランク上位選手を熱闘の末に撃破。常に目標としていた世界女王の七條玲と準決勝で対戦し、全力を出し切る。
物語は2020年夏の東京パラの初戦、宝良がサービスを放つ場面で幕を閉じる。あいにく現実の大会は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため21年に延期になってしまったが。
車いすテニスの門外漢も、本書を通じてルールや試合の進め方、選手の駆け引きなどが一通り身に付き、観戦の楽しさが増すこと請け合いだ。また、障害者を取り巻く社会の問題などにも気付かされる。
作者は花巻市在住で、08年に「いつまでも」で第17回ロマン大賞受賞。
集英社03(3230)6095=704円。