食の歴史 ジャック・アタリ著

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食の歴史

『食の歴史』

著者
ジャック・アタリ [著]/林昌宏 [訳]
出版社
プレジデント社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784833423618
発売日
2020/02/28
価格
2,970円(税込)

書籍情報:openBD

食の歴史 ジャック・アタリ著

[レビュアー] 仲野徹(生命科学者・大阪大教授)

 フランス人の書いた『食の歴史』というだけでそそられる。それも、書き手は並のフランス人ではない。ジャック・アタリ、数々の要職を務めた欧州きっての知識人である。

 とはいっても経済学者、食についての専門家ではない。えらそうだが、ちょいとお手並み拝見という気分で読み始めた。そして、圧倒された。

 欧州だけでなく、中国をはじめアジアの食も取り上げられた通史である。過去、現在だけでなく未来の食にまで話がおよぶ縦横無尽の面白さ。さらに、個人の考えが色濃く出されているのもこの本の大きな魅力だ。

 初期の人類ではカニバリズムがおこなわれていたにちがいないというあたりから話が始まる。火を使った調理が始まり、農耕牧畜から定住社会へ。ギリシャ、ローマにおけるヨーロッパ食文化の誕生と多彩なる融合。そして17世紀には「フランスが世界の美食の規範」となる。

 食というのは、単に食べるというためだけの行為ではなく、会話とともに楽しむべきものだという基本的な考えが何度も繰り返される。

 しかし20世紀にはいり、「栄養学というアメリカ資本主義」が席巻し、「アメリカの国益のために、粗食が提供されるように」なっていく。食を楽しむ姿勢に欠けるアングロサクソン流、とりわけ米国において異常なまでに発達した、栄養と効率ばかりを重視しすぎる食事には手厳しい。

 終盤、いまや世界の食文化は「アングロサクソン型に収斂(しゅうれん)」し、遠からず「家族で食卓を囲む機会の喪失」がおこり、「人類史において五〇〇〇年以上続いてきた会食という社交の場は消え去り、個食化はこれまで以上に進行するだろう」と嘆き悲しむ。

 新型コロナウイルスがはびこり、会食の楽しみはほぼ完全に失われてしまっている。緊急事態宣言が解除され、親しい仲間と豊かな食事を再開できるようになった時、きっとアタリの考えがいかに正しいかが身にしみてわかるだろう。そんな日が待ち遠しくてたまらない。林昌宏訳。

 ◇Jacques Attali=1943年生まれ。フランスの経済学者、思想家。政治・経済・文化に大きな影響力を持つ。

読売新聞
2020年5月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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