エリザベス女王 君塚直隆著 中公新書

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エリザベス女王

『エリザベス女王』

著者
君塚 直隆 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784121025784
発売日
2020/02/19
価格
990円(税込)

書籍情報:openBD

エリザベス女王 君塚直隆著 中公新書

[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞特別編集委員)

 新たなる伝記の大いなる楽しみのひとつは一般に流布されている「常識」という名の誤解を取り除いてくれることです。英国王室研究の第一人者の著者による「史上最長・最強」の英国君主、エリザベス2世論はその標本です。

 立憲君主とは「君臨すれども統治せず」に象徴されるように、現実政治には直接関与しないというイメージがあります。エリザベスはそうではありません。27年もの長い間、南アフリカで虜囚の身にあったマンデラの釈放に積極的に関わります。今や53か国にのぼるコモンウェルス(旧英連邦諸国)という類い希(まれ)な共同体も女王なくしては崩壊したともいわれています。

 女王は毎週一度は英首相と会見、長時間にわたって話し合います。「この拝謁(はいえつ)が単なる形式的なものだとか、社交上の儀礼に限られていると想像する者がいたら、それは完全に間違い」とサッチャー元首相は喝破しました。

 「女王はまさに男の心臓と胃を持っていらっしゃる」(マクミラン元首相)など女王が端倪(たんげい)すべからざる「政治家」との証言は枚挙にいとまがありません。その一方で、25歳の若さで即位したため「負い目」を背負うことになります。

 優先順位が「第一に女王、第二に妻、そして第三に母」になったからです。長女の離婚、次男の別居、長男の不倫が同時に押し寄せます。子どもたちを自らの手で育てられなかったゆえと後悔してしまうことになるのです。

 1975年5月、女王は英国君主で初めて日本を訪問します。最も印象深かったことを問われ答えます。「それは陛下(昭和天皇)にお目にかかり、教えを受けたことです」。自分が教えを受けられるのはこの人しかいないと信じて地球を半周し、十分報われたと感謝しました。

 互いに君主でしか理解できない世界がお二人にはあったのでしょう。この書はエリザベス女王と英国王室への限りない共感なくしては決して生まれ得ない伝記なのです。

読売新聞
2020年5月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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