フテンマ戦記 小川和久著

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フテンマ戦記 基地返還が迷走し続ける本当の理由

『フテンマ戦記 基地返還が迷走し続ける本当の理由』

著者
小川 和久 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163911816
発売日
2020/03/13
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

フテンマ戦記 小川和久著

[レビュアー] 篠田英朗(国際政治学者・東京外国語大教授)

 軍事アナリストとして長く活躍している著者が、1996年からの普天間基地移設問題と自らの関わりをつづった回想録である。「24冊の手帳」の記録をもとに、普天間問題に関わってきた人物たちを、描き出した。

 四半世紀にわたり、著者は、その時々の自民党や民主党の政権担当政治家やその側近・官僚たち、及びアメリカ政府関係者や沖縄県関係者と様々な形で関わってきた。登場人物は、よく知られた政治家から外交問題の専門家まで多岐にわたる。本書を読むと、誰がどのように沖縄の問題に関わってきたかが通覧できるようになっている。

 著者の人物評は、時に非常に厳しく、生々しい。著者独自の視点からの人物評ではあるが、そこには民間の軍事問題専門家としての誇りがある。著者が、覚悟を定めて本書を執筆したことがうかがえる。客観的な同時代史の記録としても、大きな価値があるだろう。

 著者は、当初から米軍キャンプ内に飛行場を作る案を持っていた。「海兵隊の作戦や訓練に必要な条件を満たしておらず」「建設費が異様に巨額で、汚職の問題を疑わざるを得ない」辺野古案に対して、著者は批判的である。著者の案は、時に数多くの有力者の賛同を得たが、結果的には不明な事情の中で潰されてきた。内部者であるだけに、裏切りを受けたと感じる場面も経験した。

 著者は、本書の中で何度も「嘘(うそ)」という言葉を使う。普天間周辺住民のために、著者は幾度も激高した。パーティーで「私がいるのを目にするや、直角に右折して違う方向に歩み去った」政府関係者らが登場する。

 本書を通じて著者が苛立(いらだ)ち続けているのは、軍事問題の知識を欠いた「普天間マフィア」とも言うべき人々が、それぞれの利権や打算を求めて沖縄問題に関わり、不透明な形で意思決定に影響を与えようとし続けてきた政治の状況であろう。果たして現在の日本の政治状況はどうだろうか。大いなる警世の書である。

 ◇おがわ・かずひさ=1945年生まれ。静岡県立大特任教授、軍事アナリスト。政府の政策立案に関わった。

読売新聞
2020年5月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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