『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』
- 著者
- ジェスミン・ウォード [著]/石川由美子 [訳]/青木耕平 [解説]
- 出版社
- 作品社
- ジャンル
- 文学/外国文学小説
- ISBN
- 9784861828034
- 発売日
- 2020/03/25
- 価格
- 2,860円(税込)
書籍情報:openBD
アメリカの患部と暗部に鋭く深くメスを入れる全米図書賞受賞作
[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)
敬愛する祖父リヴァーを「父さん」と呼び、幼い妹のケイラを、あてにならない母親の代わりに大事に守ってやっている十三歳の少年ジョジョ。十五歳の時に最愛の兄ギヴンを白人に殺され、にもかかわらず犯人の従兄弟であるマイケルを愛し、我が子を育児放棄しているレオニ。パーチマン刑務所で若き日のリヴァーが出会い、弟のように面倒をみたものの死んでしまった少年リッチーの霊。ジェスミン・ウォードの『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』は、アメリカ南部の湿地帯を舞台に、この三者が語り手となった長篇小説だ。
母親を憎み、軽蔑しているジョジョ。もうすぐ刑務所から出所してくるマイケルのことしか頭にないものの、ジョジョとケイラに愛情を傾けることができない自分をもてあましてもいるレオニ。地縛霊のようにパーチマンに留めおかれ、自分を解放してくれるのはリヴァーだけと思いさだめて、その孫であるジョジョにつきまとうことになるリッチー。
そこに寡黙で我慢強い祖父と、重い病で床に伏しているスピリチュアルな異能を持つ祖母、意志薄弱だけれど気のいいマイケル、黒人であるレオニを息子の妻として認めようとしないマイケルの両親、リッチーやギヴンをはじめとする霊たちの声が加わって、アメリカの患部と暗部に鋭く深くメスを入れるスケールの大きな物語になっているのだ。
〈泣きながらさまよってるやつなんか、いくらでもいる。迷子になって〉とは、リッチーがジョジョに語りかける言葉だけれど、作者はこの小説の中で、無念の死を遂げた人々を懸命に慰藉しようとしている。祖母から異能を引き継いだジョジョとケイラを希望の種子として、物語の中で慈しみ育てようとしている。つらいエピソードが多い物語ではあるけれど、それゆえに読後感はいい。トニ・モリスン、ジェイムズ・ボールドウィンの系譜に連なる力強い声に、この小説で出合ってほしい。