「理想の父親っぽく描かないで」 矢部太郎の新作、絵本作家の実父からダメ出し

インタビュー

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「理想の父親っぽく描かないで」 矢部太郎の新作、絵本作家の実父からダメ出し


矢部太郎さん

芸人で漫画家の矢部太郎さんの新連載がスタートした。タイトルは「ぼくのお父さん」。前作『大家さんと僕』で実体験を元に大家さんとの心温まる交流を描いた矢部さんが、今作では絵本作家でもある父親をテーマに描く。連載開始にあたって、新作に込めた思いを語っていただいた。

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――デビュー作の「大家さんと僕」はシリーズ累計で120万部を超える大ヒットになりました。違うテーマでの新しい連載を始めるにあたってプレッシャーなどはありましたか?

「大家さんと僕」では、僕が面白いと思っていることを描いたんです。そしたらたくさんの方に読んでもらえて、評価してもらえたことがすごく嬉しかった。だからまた、自分で面白いと思っているもの、描きたいものを描いて皆さんに喜んでもらえたらいいなと思いました。「大家さんと僕」のおかげで描く仕事も色々いただけたりしたので、プレッシャーというよりは、こういう方向でやってていいんだなという自信になりました。肩の力を抜いて始められた感じです。


絵本作家の父・やべみつのりさんとの幼少期の思い出を綴る。小説誌「小説新潮」にて連載中

――なぜこのテーマをえらばれたのでしょうか。

「大家さんと僕」を出した後、お父さんが絵本を出版していたこぐま社さんから会報誌に「お父さんの話を描いて欲しい」とリクエストがあって、描いてみたことがあったんです。あとは、『「大家さんと僕」と僕』の取材で、編集者さんと一緒に、実家のお父さんにインタビューに行ったんです。その時、お父さんにインタビューをした編集者さんからも「魅力的で面白い、変な人だ」って評判で、やっぱりうちのお父さん変わってるよな、漫画にしたら面白いだろうなと思ったこともきっかけのひとつです。

――矢部さんから見たお父さんはどんな方ですか?

「変わった人」でしょうか。子どもの頃から、うちのお父さんはよそのお父さんとはちょっと違ってて「変わってる」と思っていました。大人になって改めて、人としても「変わってる」と思います。でも僕にはお父さんが「変わってる」のか、それ以外の世界が「変わってる」のかわからないところがあります。あと普通ってなんなのかとか。そんな気持ちを描きたいなと思っています。

――漫画からもそれがよく伝わってきます。お父さんと同じ「描く」ことを仕事にしてらっしゃるわけですが、それにはどんな思いがありますか?

 ええっと、僕は本当は芸人なんですけど……まあいいや。そうですね、「大家さんと僕」を出版したあと、インタビューとかでお父さんについて話す機会も増えました。話しているうちに、お父さんとの共通点も見えてきて、僕ならではの「父息子もの」が描けるんじゃないかなと思いました。「スターウォーズ」とかもそうですけど、息子がお父さんを倒すとか乗り越える話って神話の時代からたくさんあるじゃないですか。でも僕とお父さんの関係はそういうものじゃない。だからこそ他にない、面白いものが描けるんじゃないかなと思いました。

――昔のことを描くにあたって、ご家族に取材などされましたか?

 僕の記憶に頼ってる部分も多いんですけど、実はうちのお父さんは僕が生まれる前からずっと絵日記をつけているんです。50冊ぐらいあるかなあ。僕のことだけじゃなくて、お姉ちゃんのことも、お父さん自身のことも、いろんなことが書いてあるんです。そこからヒントを得たエピソードもこれから描いていくつもりです。


『ひとは泣くもの』みやのすみれ[著]やべみつのり[イラスト]こぐま舎

――矢部さんが新連載を始めたのと時を同じくしてお父さんのやべみつのりさんも『ひとは泣くもの』(こぐま社)という絵本を出版されました。これはどんな本なんですか?

 これは、僕の姪っ子、つまりお父さんの孫が小学校1年生の時に作った紙芝居のお話にお父さんが絵を描いた絵本なんです。子供って悲しい時だけじゃなくて感情表現の一つでよく泣いちゃいますよね。そんな小学生の気持ちを描いた絵本です。帯の推薦コメントは僕が書かせてもらいました。

 絵本も漫画も、どちらも楽しんでもらえたら嬉しいです。

――初めてのオールカラー連載ですね! やってみていかがですか?

 小さい頃って、今よりもっと鮮やかに世界が見えていた気がしてて。だからこの漫画にはカラーが合うんじゃないかなと思ってチャレンジしてみました。お父さんが描いていた絵本もカラーだったので嬉しい気持ちもあります。今までやったことがなかったことなので、考えないといけないことが多くて大変ですが……やっぱりやめておけばよかったなと思うこともたくさんあります。

――いやいや、始まったばかりじゃないですか! 頑張りましょう!! ところでお父さんの感想はどうですか?

「いろんな人からおもしろいと言われた」と喜んでいましたね。お父さん自身の感想としては「こういう風に理想の父親っぽく描かないで、読者にウケるためにもっとだめな部分を描いた方がいいよ」とアドバイスをされました。あの漫画のどこを見て、「理想の父親」と思ったのか、正直よく分からないんですけど……。

新潮社 小説新潮
2020年5月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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