新鋭のミステリ傑作集 作風の異なる四篇を味わえる

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透明人間は密室に潜む

『透明人間は密室に潜む』

著者
阿津川辰海 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334913458
発売日
2020/04/22
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

新鋭のミステリ傑作集 作風の異なる四篇を味わえる

[レビュアー] 杉江松恋(書評家)

 謎解き小説中毒者の特効薬だ。

『透明人間は密室に潜む』は、二〇一九年に長篇『紅蓮館の殺人』(講談社タイガ)で一躍注目を集めた新鋭の、待望の第一短篇集である。収録作はいずれも中篇の長さで、すべて作風が異なる四季の詰め合わせ弁当のような内容なので、一篇ずつじっくり味わって読んだほうがいい。

 表題作は、透明人間病なる奇怪な症状が蔓延する世界での殺人劇を描いた犯罪小説だ。前半では透明になった犯人の視点を中心に凶行までを描き、その殺人現場に駆け付けた探偵が真相を言い当てるまでを後半で描く。通常と全く異なる状況では、特殊な前提の下で推理も進めなければならない。その論理のねじれ具合が楽しめる一篇である。

 収録作中でもっとも曲芸的な論理が展開されるのは、巻末の「第13号船室からの脱出」だろう。脱出ゲームが開催される豪華客船に乗り込んだ猪狩海斗は、人違いで船室に閉じ込められてしまう。監禁された部屋から抜け出すと同時に本来の乗船目的であるゲームの謎解き、つまり二重の脱出を行うため、奇術のような思考が組み立てられていくのだ。

 タイタニック号事故で落命した推理作家ジャック・フットレルに「十三号独房の問題」という短篇があるが、その現代版というべき作品で、よくぞここまで、と感嘆したくなるほどアイデアが詰め込まれている。

 名探偵ものが好きな方には「盗聴された殺人」がお薦めだ。探偵・大野糺(ただす)の助手に雇われた山口美々香には、人並み優れた聴覚という特質があった。その能力を活かした一篇で、手がかり呈示の仕方が実に鮮やかである。そして、作者が羽目を外して書いたと思しき「六人の熱狂する日本人」。裁判員として集った六人の男女がある殺人事件について議論するという密室劇なのだが、とある事情から大脱線が始まり、悪夢のような展開となる。この結末に喝采する読者は多そうだ。同時に激怒する人も。

新潮社 週刊新潮
2020年5月21日夏端月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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