ヤバすぎる食レポを綴った正統派ドキュメント
[レビュアー] 篠原知存(ライター)
世界各地で「ヤバい奴らは何食ってんだ?」と突撃取材を繰り返す異色のドキュメンタリー。リベリアの廃墟で人食い少年兵を探し、台湾マフィアとディナーを囲む。ロシアにあるカルトの村を訪ね、ケニアでは地獄のようなゴミ山の最深部へ。
テレビ東京の同名番組で、企画や撮影、編集などを担うディレクターが著者。番組で放送できたのは集めた材料の千分の一。終着点としての書籍化だという。「ヤバい」という言葉は俗っぽいけれど、中身は正統派ジャーナリストの仕事だ。身ひとつでどこへでも赴き、伝えるべきことを拾い集める。臨場感抜群の文章で、取材を追体験させてくれる。
世の中の出来事と、自分との間には、それぞれに「距離」がある。コロナウイルスのように急速に隔たりを詰めてきた事象もあるけれど、多くの人は異国のスラムで何が起きていても気にも留めないだろう。たとえ心を痛めたとしても、どこか遠いことのように感じている。
でも「食べる」という人類共通の行為を通じて、その距離は一気に縮まる。例えば、リベリアの娼婦を取材する一幕。彼女は身を売って得た200円を握って食堂に行く。料理は150円。著者はそれを味見させてもらう。〈旨味が澱のように凝縮されて、熟成されている。老舗鰻屋の継ぎ足しのタレのような芳醇な香ばしさ……〉。つい二匙目を口にしてしまい、やっと手にした貴重な食べ物だったのに、と気づいて顔を上げると、娼婦はニヤッと笑うのだ。
過酷な環境であるほど、食べ物は輝いて見える。台湾マフィアのフカヒレスープより、腐臭漂うスラムの豆スープのほうが断然うまそう。みんな、生きるために食べている。シンプルな原理に気づかせてくれる。
忘れがたい一行を。貧しさから家を出てゴミを拾って生き延びてきた青年の自炊飯を取材した著者は「今、幸せ?」と聞く。彼は言う。〈あなたに会えたから幸せだよ――〉。