黒澤映画ポスターが82点 デザイナーたちの世界的競演

レビュー

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旅する黒澤明

『旅する黒澤明』

著者
国立映画アーカイブ [監修]
出版社
国書刊行会
ジャンル
芸術・生活/演劇・映画
ISBN
9784336065438
発売日
2020/01/24
価格
2,860円(税込)

書籍情報:openBD

黒澤映画ポスターが82点 デザイナーたちの世界的競演

[レビュアー] 都築響一(編集者)

 専門家によれば映画ポスターのデザインが傑出しているのはチェコ、ポーランド、キューバの3カ国だそうで、それは共産主義時代に作品を展示したり、販売したりする自由がなかったアーティスト達が、生活の糧として応用美術の分野の制作に勤しんだから。

 日本の映画ポスター・デザインが難しいのは俳優の写真の大きさや名前の順番など、業界のしがらみにどっぷり縛られているからで、そういう束縛と無縁でいられた日本国外の、世界30カ国の黒澤映画、デビュー作『姿三四郎』から遺作『まあだだよ』まで50年間にわたるポスター82点が並んでいる。これは「クロサワ」というお題を与えられた世界のグラフィック・デザイナーの競演であり、グループ展である。

 ヨーロッパ20カ国、南北アメリカ5カ国、アジア・中近東4カ国、オセアニア1カ国という「世界のクロサワ」ならではのポスターを眺めていると、国力の差や映画産業の規模と、デザインのクオリティにはなんの関係もないことがよくわかる。同時に、残念ながら80年代以降、『影武者』あたりからのポスターが、いささか退屈なデザインになっていくのも見えてきてしまう。

 それは映画を取り巻く状況の変化でもあるのだろう。東ヨーロッパの社会主義国家が資本主義陣営に組み込まれるようになって、競争原理が導入されたことから、ポスターは「ほかに表現の場所を持たないアーティストのストリート・ギャラリー」から、西側諸国と同様の宣伝媒体となっていくのだった。

 これからも映画はもちろん生き続けるだろうが、映画ポスターがいつまで生き残るかはわからないし、情報のプラットフォームはすでにインターネット上に移行を完了している。そういう時代にあって、半世紀前の大衆を熱狂させた映画ポスターのデザイン・パワーは僕らになにを教えてくれるだろうか。

新潮社 週刊新潮
2020年5月21日夏端月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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