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フランスの高校生の胸を打った 本を介した交流の物語
[レビュアー] 北村浩子(フリーアナウンサー・ライター)
父はフランス人の白人、母はツチ族のルワンダ難民。ガエル・ファイユの『ちいさな国で』(加藤かおり訳)は、パリに住む三十三歳のガブリエル(ギャビー)が、アフリカ東部の小国ブルンジで暮らした少年時代を回想する物語だ。
おんぼろ車の中で仲間とタバコをふかしたり、近所の庭からマンゴーを盗んだり。子どもでいることを謳歌していたギャビーの毎日に、両親の不和と戦争が影を落とし始める。父の特権意識を強く嫌悪する母はある日家を出、ブルンジ初の大統領選挙を契機に勃発したフツ族とツチ族の民族対立が家の近辺にまで迫ってくる。内戦は日常を死の色に染め、殺害された友人の父の敵討ちに巻き込まれたギャビーは、一生忘れられない心の傷を負ってしまう。
現実世界の耐え難さからギャビーを救ったのは、近所に住むギリシャ人の老婦人との本を介した交流だった。大人になった彼が約二十年ぶりにブルンジを訪れる理由が彼女の遺した本にあること、そして彼がなぜ昔を思い返しているかが明らかになるラストに胸を衝かれる。ギャビーと重なるプロフィールを持つ著者のこのデビュー作は、フランスの伝統ある文学賞、ゴンクール賞の一部門である「高校生が選ぶゴンクール賞」を二〇一六年に受賞している。
同賞の二〇一二年の受賞作がジョエル・ディケール『ハリー・クバート事件』(橘明美訳、上下巻、創元推理文庫)。エージェントに次作の執筆を急かされている新進作家マーカスは、恩師である大作家ハリー・クバートに嫌疑がかけられた少女失踪事件の真相を独自に調べ、新作として発表しようとする。小さな町の住人たちの誰もが疑わしく思える中での三転四転の展開に没入すること間違いなし。
日本の高校生による文学賞は、直木賞候補作の中から選ばれる高校生直木賞。二〇一五年の受賞作、木下昌輝の『宇喜多の捨て嫁』(文春文庫)は、冷酷無比な戦国大名・宇喜多直家を多面的に描いた、ミステリーの趣もある連作短編集。最後の一行が醸す余韻に長く浸りたい。