ドゥルーズ『意味の論理学』の注釈と研究 鹿野祐嗣著

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ドゥルーズ『意味の論理学』の注釈と研究

『ドゥルーズ『意味の論理学』の注釈と研究』

著者
鹿野 祐嗣 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784000613927
発売日
2020/02/23
価格
8,250円(税込)

書籍情報:openBD

ドゥルーズ『意味の論理学』の注釈と研究 鹿野祐嗣著

[レビュアー] 山内志朗(倫理学者・慶応大教授)

 ドゥルーズ(1925~95年)が亡くなって25年が経(た)った。彼は高速で飛び回る青白い鬼火だ。今も読者の心を魅惑する。

 飛躍だらけの書『意味の論理学』を正面から、700頁(ページ)を越える注釈によって制覇する新星が現れた。多くのドゥルーズ研究者を絶望させる圧倒的著作だ。

 浩瀚(こうかん)なる本書の概要を説明することなど夢想だにしないが、私は本書を読むことに恋い焦がれた。

 なぜか。ドゥルーズは錯雑たる中世スコラ哲学に入り込み、同一性の反復による無限性の産出など、目が眩(くら)むほど自由自在に語った。

 ドゥルーズは概念の密林をターザンのごとく動き回り、本書は爆発熱量を発しながらGPSを使ってけもの道を踏破する。中世哲学の中で迷い続ける私は嫉妬と羨望を感じる。

 ドゥルーズと著者の2人とも迷うことはない。スコラ哲学の内奥に入り込み、丁寧に解読する。特に本書の説明は妬ましいほどに正確だ。

 中世の記号論と唯名論、現代の精神分析、『不思議の国のアリス』の著者ルイス・キャロルから構成される迷路を著者は精密に解説していく。存在論的な永久革命、そこにフィナーレが設定されている。理解を越える眩暈(めまい)と快楽を感じたほどだ。

 現代思想は、「曲芸」を御披露するような雰囲気になっている。難解な概念を連ねるのはかっこよいもので皆が憧れた。ドゥルーズも一見するとその曲芸師のように見える。しかしそうではない。

 偶発性に巻き込まれる人間は心を捻(ねじ)れさせる。ドゥルーズも「こじらせ」系哲学の典型だ。捻れてこじれて、概念が傷跡として世界に刻み付けられて哲学が現れる。

 ドゥルーズはいつも揺動し、正体を見せない。一つの概念を説明するにも幾多の論文が必要だ。でも、難解でも読者を瞬殺するドゥルーズの魅力があり、この注釈書は伝えている。新しい世代による新しい哲学が始まったことを宣言する本だ。

 ◇しかの・ゆうじ=1988年生まれ。早稲田大総合人文科学研究センター招聘(しょうへい)研究員。本書が初の著作。

読売新聞
2020年5月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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