デジタル国富論 此本臣吾監修、森健編著、NRIデジタルエコノミーチーム著 東洋経済新報社

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

デジタル国富論

『デジタル国富論』

著者
此本 臣吾 [監修]/森 健 [著、編集]/NRIデジタルエコノミーチーム [著]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784492396506
発売日
2020/03/27
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

デジタル国富論 此本臣吾監修、森健編著、NRIデジタルエコノミーチーム著 東洋経済新報社

[レビュアー] 瀧澤弘和(経済学者・中央大教授)

 一九九〇年代以降の日本の経済成長率が、他の先進諸国と比較して見劣りするものであることはよく知られている。しかし一方で、日本においても人びとの生活満足度がこの間大きく向上しているとの調査結果がある。本書は一見パラドックスに見えるこの乖離(かいり)に斬り込み、デジタル技術の活用が経済社会にもたらしつつある変化を「デジタル資本主義」へのパラダイム変換として把握しようとする。

 わかりやすい例をあげよう。今日では、インターネットの検索サービス、SNS等、デジタル技術の利用は、それがない日常を想像できないほど生活の一部となっているが、これらの多くは直接的対価なしに提供されている。つまり、サービスから受ける満足度とそれに対して支払っている金額との差(「消費者余剰」と呼ばれる)はかなり大きなものになっているのだ。さまざまな調査結果は、生活満足度とデジタルサービス活用との高い相関関係を示唆している。

 このことは、市場価格ベースの指標であるGDPがもはやわれわれの生活満足度を反映できなくなっていることを意味している。

 デジタル技術の活用が引き起こしつつある変化は、従来型の生産者中心的な「産業資本主義」に適した分析道具では把握しきれない。そこで著者たちは、デジタル技術が利用者視点を中心にしたサービス化を引き起こしつつあることを経営学的分析で提示する。

 政策提言も興味深い。GDPのピンボケを修正するための新たな経済指標が提案される。また、電子政府先進国の分析も興味深いが、独自性を考慮しつつ、日本にデジタル化を導入するための戦略についても考察している。

 昨今はテレワークを体験し、改めてデジタル技術の長所と短所を身近に感じた人も多いはずだ。AI(人工知能)や情報技術(IT)について負の側面を強調する議論が多いなかで、明るい未来の構築を想像させてくれる本である。

読売新聞
2020年5月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加