人類と病 詫摩佳代著 中公新書

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人類と病

『人類と病』

著者
詫摩 佳代 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784121025906
発売日
2020/04/21
価格
902円(税込)

書籍情報:openBD

人類と病 詫摩佳代著 中公新書

[レビュアー] 篠田英朗(国際政治学者・東京外国語大教授)

 国際政治の観点から国際保健政策を見守る著者の長年の研究の成果だ。期せずして、コロナ危機の最中という運命的な時期の公刊となった。

 感染症を中心とする病は、人類の歴史で何度も危機をもたらし、そのたびに社会を変えてきた。中世に流行したペストは、ヨーロッパの人口の3分の1を犠牲にした。中世的秩序の崩壊の背景には、病が引き起こした巨大な社会変動があった。19世紀の都市化の最中に流行したコレラは、公衆衛生の重要性を為政者たちに痛感させる事件でもあった。

 感染症は、人の移動によってもたらされる。ペストやコレラが、アジアからヨーロッパにもたらされて甚大な被害を出したように、地域を超えた伝播(でんぱ)を見せた時に、特に爆発的な拡大を見せる。そこで国際的な取り組みが求められる。1851年に歴史上初めての国際衛生会議が開催された。1903年には、感染症発生の場合に、諸国が相互に協力しあうことを定めた国際衛生協定が初めて結ばれた。

 しかし国際政治の進展の中で、感染症の脅威は繰り返される。植民地の拡大をへて、アフリカからもたらされたマラリアは、ヨーロッパでも被害を出した。第一次世界大戦中の米兵の移動にともなってアメリカからヨーロッパにもたらされて世界的に流行したスペイン風邪は、7500万人の犠牲を出したとされる。

 著者はさらに第二次世界大戦後に設立されたWHO(世界保健機関)が、国際政治の荒波の中で、様々な感染症などと格闘する様子も克明に描き出す。そして病との闘いが、常に時々の国際政治の動向に翻弄(ほんろう)されながら進められてきた事実を明らかにしていく。

 新型コロナの問題も、様々な国際政治上の問題を引き起こしている。本書を読むと、それが歴史的に奇異な状況ではないことがわかる。現下の危機的問題を、歴史的視点で捉えることができるようになる、現代人必読の書だ。

読売新聞
2020年5月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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