文明史から見たトルコ革命 アタテュルクの知的形成 M・シュクリュ・ハーニオール著

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文明史から見たトルコ革命

『文明史から見たトルコ革命』

著者
M・シュクリュ・ハーニオール [著]/新井政美 [監修、訳]/柿﨑正樹 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784622088851
発売日
2020/03/04
価格
4,400円(税込)

書籍情報:openBD

文明史から見たトルコ革命 アタテュルクの知的形成 M・シュクリュ・ハーニオール著

[レビュアー] 加藤聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)

 学生時代、来日したトルコの外相の講演を聴いたことがある。ほとんど内容は忘れてしまったが、トルコはヨーロッパだとやたら強調していたことだけは覚えている。

 日本人にとってトルコといえばヨーロッパではなく中東、イスラム教の国だけどアラブやイランほど厳格ではないといったイメージか。また、かつての教科書は「オスマン・トルコ」と書かれていたので、オスマン朝の歴史と結びつける人もいるかもしれない。

 ただ、「オスマン・トルコ」は、現在では「オスマン帝国」が正式名称。これはトルコ人が支配した帝国ではなく、トルコ系のオスマン家の帝国だったという理由から。

 実は、トルコは第一次世界大戦後に誕生、トルコ人という民族概念もそれと同時に確立された。その「トルコ」という国家と「トルコ人」という国民を一人で創り上げたのがケマル・アタテュルク(1881~1938年)。本書は、神話化しているアタテュルクの思想的実相を読み解き、世界史的に特異な形成過程を辿(たど)った国民国家の本質に迫る。

 コスモポリタン的な土地に生まれ、西欧科学主義を思想的基盤としたアタテュルクは、歴史(オスマン帝国)と宗教(イスラム教)を徹底的に排除したトルコ共和国という国民国家を創り上げるために、イスラム教、トルコ民族主義、共産主義、さらにはカルト的な歴史・人種論にいたるまで何でも利用した。

 とにかく西欧の一員になることを目指したアタテュルクの国家建設は、中東版「脱亜入欧」ともいえるものだったが、西欧がこれを受け入れたかは別の話。EU加盟をめぐる対応を見ても明らかだろう。

 本書の訳者解説でエルドアン現大統領との比較を論じているように、近年のトルコのイスラム回帰と中東情勢への積極的関与は、トルコという国民国家形成をめぐる葛藤が今も続いていることのあらわれでもあろう。新井政美監訳、柿崎正樹訳。

 ◇M・シュクリュ・ハーニオール=1955年トルコ生まれ。米国プリンストン大教授。トルコ歴史協会名誉会員。

読売新聞
2020年5月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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