風と双眼鏡、膝掛け毛布 梨木香歩著

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風と双眼鏡、膝掛け毛布

『風と双眼鏡、膝掛け毛布』

著者
梨木 香歩 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784480804938
発売日
2020/03/18
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

風と双眼鏡、膝掛け毛布 梨木香歩著

[レビュアー] 木内昇(作家)

 名は体を表す、と言うが土地こそ然(しか)りなのだろう。日本各所に足を運び、そこで出会った地名の由来を、歴史や伝来の逸話に照らしつつひもといていく様には、ページを繰りつつ絶えず心が躍った。

 塩津や塩尻など、かつて塩や物産を運んでいた道筋にある街、アイヌ文化を色濃く反映する土地や、姨捨(おばすて)、毒沢、犬挟(いぬばさり)といった、曰(いわ)く「ざわっとする地名」まで、その探求は多岐にわたる。時に土地に住む人に話を聞き、また「続日本紀」や「常陸国風土記」といった書物にあたる。一編一編は短いが、そこで展開される考察は、深長でありながら幻想的な趣をかもす。あたかも、その土地に生きた先人たちと語らっているような。

 「世の中は私などの知らない様々な『経緯(いきさつ)』で満ちている」と、著者は幼くして気付いたという。その際立った感性と、カヤックを漕(こ)ぎに各地を訪ねてきた経験が、景色へと深く分け入る道筋を速やかにしているのだろう。

 なじみ深い地名を見付け、どの土地にも先人たちの思いの標(しる)しが地層のように積み重なっていることを知る。足下にも尊い記憶は潜んでいるのだ。(筑摩書房、1500円)

読売新聞
2020年5月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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