「競技ダンス」へようこそ 二宮敦人著 新潮社

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

紳士と淑女のコロシアム 「競技ダンス」へようこそ

『紳士と淑女のコロシアム 「競技ダンス」へようこそ』

著者
二宮 敦人 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103502920
発売日
2020/03/17
価格
1,815円(税込)

書籍情報:openBD

「競技ダンス」へようこそ 二宮敦人著 新潮社

[レビュアー] 南沢奈央(女優)

 わたしの大学時代は、穏やかな生活と引き換えに、青春はなかったなと思う。

 中高ともに運動部だったが、大学では部活やサークルに入らなかった。というのも、新歓の、ぐいぐい来る感じが苦手だったのだ。終始逃げていたから検討にも至らなかった。

 「競技ダンスは究極の格闘技だ!」

 もし、本書の帯の文句で声を掛けられていたら、わたしも足を踏み入れていたかもしれない。「学生競技ダンス」の世界。『最後の秘境 東京藝大』の著者が描いた、次なる秘境だ。

 運動音痴で中高は美術部だった著者が、優勝メダルを取るまでにのめり込んだ競技ダンスとは、一体どんなものなのか。大船一太郎という著者の分身を主人公とし、大学時代の奮闘記を描きながら、同時並行で、かつての同志たちの現在を訪ね、当時を振り返っていく。

 華やかな衣装を身に纏(まと)い、微笑(ほほえ)みを絶やさずに優雅に舞いながら、技術や芸術要素を競い合う。だが、どの技が何点とか、明確な評価基準がない。大船がまず教わったダンスの基本が、「俺を見ろ」。審査員にインパクトを与えた者が勝つ。上品なイメージとはかけ離れた、汗と涙にまみれながら笑顔を絶やしてはいけない、超過酷な練習が待っている。特に初合宿での、先輩が良しとするまで無限に続くかと思われた基礎練習を終えた時には、わたしも鼓動が高鳴り涙を流していた、もちろん笑顔で。

 勝負の世界にある厳しい現実とも向き合っていかねばならない。「大事なことは全てダンスに教わった」と、当時を振り返る大船を始め、競技ダンスを経験した人からはみな、様々なものと闘ってきたであろう傷が窺(うかが)える。

 面白い。辛(つら)い。楽しい。苦しい――。本書にあるのは、爽やかな青春ではなく、傷の残る青春だ。だが、ときどき触れてはヒリヒリとした痛みを確かめたくなる。わたしにはその傷が、身体に宿った宝物に見える。

読売新聞
2020年5月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加