竹刀や防具を発明し、現在につながる剣道の原点を作った男を岡本さとるが描く!

インタビュー

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熱血一刀流(一)

『熱血一刀流(一)』

著者
岡本さとる [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758443265
発売日
2020/03/14
価格
682円(税込)

書籍情報:openBD

岡本さとるの世界

[文] 角川春樹事務所


岡本さとる氏

人気シリーズ「剣客太平記」「新・剣客太平記」で、剣士の生き様を描いてきた岡本さとる氏。新作『熱血一刀流〈一〉』では、後に北辰一刀流へ繋がっていく「剣道」の源流、修行のための防具を考案した中西忠太を主人公に、真正面から一流派の立ち上げを描いていく。知られざる中西忠太とその息子をどのように描くか、文芸評論家・細谷正充氏との対談で、その創作過程に迫る。

 ***

─細谷正充(以下、細谷)  本日は、ハルキ時代小説文庫で始まる新シリーズ、「熱血一刀流」について、いろいろお話ししていただきます。その前に他の作品に少し触れますが、デビュー作品の「取次屋栄三」は、設定が凝ってましたね。それに対して「剣客太平記」は、すごくオーソドックスですけど。
岡本さとる(以下、岡本)  ええ、「剣客太平記」は、本当にオーソドックス。「取次屋栄三」 は、ある種「折れてまた翔ぶ男」の話じゃないですか。そうじゃなくて、純粋に剣客の道を行く男の話は書けないかってことでできたのが「剣客太平記」なんです。
─細谷  「剣客太平記」は十巻を一区切りにして、「新・剣客太平記」になりました。最初は主人公が剣客としてどうやって生きていくかというところから始まって、「新」になると弟子たちをどうやって育てていくかという風に話が膨らんでいきます。今度始まる「熱血一刀流」は、そうした「新・剣客太平記」の流れを汲んでいるんじゃないかと思うんですよ。
岡本  そうだと思います。ただ今回の忠太は、「剣客太平記」の峽竜蔵よりもうちょっと行儀のいい師範かな。一応、奥平家の家来ですから。これは苦労したんですけど、資料が全くない人物なんです。─細谷  ちょっと調べただけでは、全然出てこない。
岡本  そうなんですよ。なので、どこまでやっていいのかな、というところですごく迷ったんです。生没年もはっきりしていない人ですから、初代も二代目も。二代目は剣道の防具を作った人ってことで有名ではあるんだけど、それだけ。
─細谷  著名になるのは、もうちょっと後の代になってからですよね。
岡本  そうです。そこから色々あって北辰一刀流に繋がっていくわけなんです。
─細谷  作品を読んで強く思ったのは、これは「熱血学園ドラマ」だと。

岡本  (テレビドラマの)『ルーキーズ』ですよね。あとは、バスケットの青春もので『コーチ・カーター』という映画があるんですが、あれも似たような話。ちょっと出来の悪い奴を集めて強くしていくコーチの話で、そういうのを一度書いてみようかと。もうネタが詰まってきましたんで、窮余の一策ですが(笑)。中西忠太を扱うというのは角川春樹社長のリクエストなんです。誰も中西忠太を使っていないから使ってみようと。でも、なぜ扱っていないのか、分かった気がします。
─細谷  特に中西派一刀流を扱いたかったとか、そういうわけではなかった。
岡本  それはもちろんありました。謎に包まれた部分があるので、いかようにして「剣道」の源流に繋がっていったか、というところは興味があります。
─細谷  小野派一刀流の描き方も面白いですよね。形骸化しつつある名門という。
岡本  柳生も一緒なんじゃないかと思うんですよ。将軍家御指南ってなると負けてはいけなくて、「御留流」になっていく。そこに意味があるのかと悩んだのが、忠太だという位置づけにして、それに賛同する荒くれの弟子たち、という単純な発想にしたんです。
─細谷  最初から、息子も含めて弟子が六人もいるので、話はいくらでも作れますよね。
岡本  彼らがどう成長していくのか。中西派と直心影流の長沼派は実際に交流があったと思われます。長沼四郎左衛門と互いに防具についてのやりとりもあり、だんだん竹刀に代わっていく。防具をつけるようになっていく。そして(直心影流藤川派の)藤川弥司郎右衛門と五人の弟子を戦わせたり―もう軽くひねられてしまうんですけれども。そこは『スクールウォーズ』の「俺はお前たちを殴る!」のシーンみたいですね。いろんな青春ものをパクってる(笑)。
─細谷 六人の弟子たちの成長だけでなく、忠太自身も成長していきますよね。
岡本  そうなんですよ。忠太自身もこの時防具を着けていたわけではないので、防具を着けて如何に弟子に教えるのかっていうのを自分でも学んでいく。そこに長沼四郎左衛門とその弟子の正兵衛という、当時一流の剣客ですけれども、この二人が忠太に惚れこんで何とか手助けをしてやろうっていう配置にしている。当時の剣術がどういう風にできていったかっていうのを、脚色を入れつつ書いていけたらと。


細谷正充氏

─細谷  剣術の流れがどう変わっていったかを、結果的には描いていくことになるんですね。
岡本  そうなります。怒られるんと違うかなぁと思っていますけどね(笑)。
─細谷  中西忠太がよく分からない人物ということで、自由に動かせるんじゃないですか。
岡本  ほとんど想像で書いています。ちょうどこの四十年前に山田平左衛門、長沼四郎左衛門父子が防具を初めて導入したのに、広まっていない。でも中西忠太がやったことによって、防具も一気に広まる。その流れっていうのも、忠太がいろいろなことに悩み、大きな流派である小野派に持ち込み、そこで一気に広まったんだろうと。どういう風にしてそうなっていったかっていうのを考えると、賛同する弟子もそんなにいなかったんじゃないか。ちゃんとした家の子弟は小野派一刀流の正流を学びなさいってことになるだろうし。そういう時代に防具剣道をやるっていうのは「目立たないと世に出られない」と考えているような奴。そんな奴らが集まって一つの「術」として、中西派一刀流を作っていくのかなと思ったんですよね。
─細谷  中西忠太が「中西派一刀流」を作ったというよりも、弟子と一緒にみんなで作り上げていくっていうのが非常に面白かったですね。つまり忠太は剣客としては完成されていても、流派の祖としては完成されていないというか。
岡本  そうなんです。自分のやりたいことに賛同してくれる弟子を探すところから始まってるんです。

─細谷  すごく強引(笑)。物語の中で、一番子供っぽい人なんじゃないかと思います。
岡本  おめでたい男なんです、すごく熱血だし。でも、それでみんなが集まってくれる。ある種、息子の忠蔵のほうが落ち着いているんですね。父親を見ているので。
─細谷  父親が子供だと息子が大人になる。
岡本  すごく頑固なところと幼児性の高いところと、それでいて剣術に本当に熱心で、六人に対する愛情の深さがある。要するに「学校に変わり者の教師が来ました」ってところですよね。
─細谷  今の若い人たちが「人生つまんない」って言う原因の一つって、大人世代が人生を楽しんでいないからだと思うんですよ。そういう時にこの中西忠太みたいな「人生楽しくってしょうがない」大人がいると、全然違うと思うんです。
岡本  僕らから見れば、舞台をやってる人がそうです。ヘタクソな役者でも「こいつ面白いなぁ」って奴がいるんです。だから僕は舞台に関しては上手い下手よりもキャラクターを重視する。キャラクターだけは作ろうとして作れるものではないから。劇団の役者を見ていると面白いですよね。七十のおやじと十八くらいの奴が同じようにアホなことを言ってる。
─細谷  そういうことが、忠太と弟子の関係に?がっているのですね。大人が読むと、自分たちの若い時を思い出すというか、そういう共感を呼ぶんじゃないんでしょうか。
岡本  そう読んでくれたら有難いですけどね。ちょっと違う切り口で、剣豪ものを書いてみたいなというのはありましたんで。主人公は忠太なんだけれども、弟子たちも主人公であるみたいな。
─細谷  そういえば剣豪小説らしい、真剣での斬り合いのシーンがありませんでしたね。もし今後も、真剣の斬り合いが一度も出てこなかったら、そんな剣豪小説って初めてなんじゃないですか。
岡本  でも、このままいくとなくてもいいかな。
─細谷  成り立つんですよね、このままでも。
岡本  今の流れでいうと必要ないかなとは思うんです、そういう真剣でやり合うっていうのは。ただ、何かの流れの中で「こういうことがありました」っていうのは、入れてもいい。─細谷  道場関連じゃないところで。
岡本  そういうのを見て(弟子たちが)衝撃を受けるとかいうのは必要かなとは思うんですが、人を一人も斬らない剣豪小説があってもいいんじゃないかな。
─細谷  奥平家の家臣だっていうことから話が作れそうではありますよね。
岡本  忠太に関しては、一人ぐらい斬っていることにはしておきたい。だから回想の部分で、そういうところはあってもいいかなとは思いますね。
─細谷  シリーズ全体の構成はもう考えているのですか。
岡本  「剣客太平記」ほど、長くはならない。ある程度のところまで書いて、どうにかこうにか(弟子たちが)試合に勝つ。そこでパンと終わりたいなと思っています。高校が三年間しかないのと一緒ですね(笑)。だから道場の体裁としてこれからいろんな奴が入ってきて、道場が誕生するというところまでを描けたらなと思ってるんですよ。
─細谷  短く終わらせてしまうともったいない内容ですけど。
岡本  そう言っていただけると有難いです。

【著者紹介】
岡本さとる(おかもと・さとる)
1961年大阪市生まれ。立命館大学卒業後、松竹入社。その後フリーとなり、テレビ時代劇の脚本を数多く手掛ける。2010年小説家デビュー。主な作品に「剣客太平記」「新・剣客太平記」「取次屋栄三」「居酒屋お夏」「若鷹武芸帖」「恋道行」の各シリーズ、『戦国、夢のかなた』『花のこみち』(文庫改題『さらば黒き武士』)『それからの四十七士』がある。

【聞き手】
細谷正充(ほそや・まさみつ)
1963年埼玉県生まれ。文芸評論家。編著書に『必殺技の戦後史』『名刀伝』など。最新の編著書『ねこだまり〈猫〉時代小説傑作選』がPHP研究所より発売中。

聞き手:細谷正充

角川春樹事務所 ランティエ
2020年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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