「結果を求めて挫折ばかりだった」 芸人・キンタロー。が語った社交ダンスの魅力

対談・鼎談

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紳士と淑女のコロシアム 「競技ダンス」へようこそ

『紳士と淑女のコロシアム 「競技ダンス」へようこそ』

著者
二宮 敦人 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103502920
発売日
2020/03/17
価格
1,815円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

人生を激変させた「競技ダンス」の魔力

[文] 新潮社

キンタロー。×二宮敦人・対談「人生を激変させた「競技ダンス」の魔力」


キンタロー。さん

日本代表として世界の舞台で踊ったお笑い芸人のキンタロー。さんが、『紳士と淑女のコロシアム「競技ダンス」へようこそ』の著者・二宮敦人さんと、「競技ダンス」の魅力を熱く語った。

 ***

二宮 本日は学連(学生競技ダンス連盟)の偉大な先輩にお会いできて光栄です!

キンタロー。 いきなりツカミが(笑)。私たち、地域も大学も違うけれど、同じ時期に学連に所属して、踊りまくっていたんですよね。たまたま私の方が二年上というだけで。

二宮 僕はモダン人で、先輩はラテン人。先輩は全国大会で常連の強豪選手でしたよね!

キンタロー。 「先輩」はやめて(笑)。二宮さんの本を読んだら、当時の仲間に会いたくなっちゃった。小説みたいにぐんぐん読んじゃったんですけど、これ、実話なんですか?

二宮 はい、一橋大学にいたときの自分と仲間のことです。ちょうど卒部十年を迎える時期に、同期や先輩後輩に「今だから言えること」を取材させてもらって書きました。プライバシーには十分注意したつもりですが……。

キンタロー。 過去と現在をノンフィクションで行き来しながら進んでいく構成も新鮮でした。フェイスブックとかでも「これが私の青春」なんて、本を紹介してくれている人がたくさんいますね。二宮さんとは面識がなさそうなのに、自分のことのように嬉しそうに推している。私も、みんな同じ経験をしていたんだ、って嬉しくなりました。

二宮 ありがたいです。二十歳上の先輩からも「自分の青春を書いてくれてありがとう」と言っていただけました。私的な物語のつもりだったので、正直、ホッとしましたね。同時に、今現在コロナウイルスの影響でカップル練習も試合もできなくなっている現役は本当につらいだろうと思うんです。緊急事態宣言の前に会った子も、カップルで練習できず自宅で自主練していると言っていました。

キンタロー。 四年生は特にかわいそうですよね。最後の年の晴れ舞台は数試合しかないのに、残酷すぎる。

二宮 だから先輩、もといキンタロー。さんと大学時代のダンスの話ができたら、彼らへのエールにもなるかな、と思ったんです。

キンタロー。 学連はもちろん、すべての社交ダンサーに元気をだしてほしいよね。

新歓で男子を狙う「捕獲班」

キンタロー。 二宮さんの本で印象的だったのはやっぱり「シャドー」でした。あれ、学連独特の制度ですよね。

二宮 一橋では、入部して二年目の秋頃に、上級生によって誰と誰が組むかを決められるんです。で、一度組んだら卒部まで変わらない。そこでカップルを組ませてもらえなかった人は「シャドー」と呼ばれて、在学中ずっと一人という理不尽なシステム(註・現在ではシャドー同士でカップルを組める)。影ですよ、影。もう少し別の言葉はなかったのか……。

キンタロー。 私がいた関西外国語大学では毎年末にリーパー会議があってカップルを決めてました。リーダー(男性)とパートナー(女性)、略してリーパー。先輩と後輩でも組めるんですが、女性のほうが圧倒的に多いから、どうしても組めない人が出てくる。これがまた哀しくて。

二宮 あと、うちの部では恋人同士で組むのをカップルカップルと言ってましたが、それはむしろ少数派でしたね。

キンタロー。 そうなんだ。うちでは「恋愛リーパー」って呼ばれて、禁止されてました。略して恋リ。

二宮 そういう呼び方があるくらいなら、隠れ恋リもいそうですね。

キンタロー。 います。でも隠すけど隠しきれない。すぐわかる(笑)。

二宮 なんで禁止されてたんですか。

キンタロー。 恋人同士で組むと、別れたからダンスのパートナーも解消するってなりがちだったから、と聞きました。でも、禁止したらしたで、恋人と組ませてくれないなら退部するって人もいて。だから、私の代が部の幹部(三回生)になったときに恋リをOKにしたんです。恋リの関係から結婚して、子どももできて、夫婦でダンススタジオをやるようになった後輩もいます。

二宮 おお!

キンタロー。 それでもやっぱり女性が多いんですよね。だから新歓では男子の捕獲、じゃないや勧誘に力を入れました。二宮さんも本で書いていますよね。

二宮 はい、実体験を元に、主に捕獲される側からの視点で書きました。

キンタロー。 あのとおりです。捕獲班はビジュアルのいい子と喋りがうまい子がワンセット。彼氏からもらった指輪はもちろん外します。彼女たちからの“確保”の連絡を待って、バックアップ班は少し離れたところで待機。そこに両脇から捕獲班に腕を絡めとられ、もとい組まれた男の子が連れて来られる、と。

二宮 もはや狩りですね……。

キンタロー。 シャドーになるつらさを知ってますから! で、仮入部したら自宅提供班の家で毎日鍋パーティーです。新入生はみんな一人暮らしを始めたばかりで寂しいじゃないですか。そこへ赤ちゃんのように手取り足取り至れり尽くせりで情を植えつけていくんです(笑)。

二宮 ああ……接待は一橋でもありました。こんなにただで飲み食いさせてもらっていいのか、って不思議でしたね。あと、単位をとりやすい授業を教えてもらったり、必修授業の過去問やレポートを提供してもらったり。

キンタロー。 かなりの好待遇ですね。

二宮 他にも、奥多摩へのハイキングとか、遊園地に連れていってもらったりもしましたね。そこにはプールがあって、先輩女性陣もバーンと水着に。

キンタロー。 全方向から攻めてる(笑)。黙ってても男子が入ってくれる部活じゃないですからね。いったん入部してくれても油断は禁物。女性陣の間では、「ちょっと冴えないオタク気質の男子の方が開花して続くんだよね。チャラ男はダメ!」とか話してました。

二宮 確かに。最初は女の子と目も合わせられないような男子が、眼鏡をコンタクトに替え、背筋をピンと伸ばし、女子と手を合わせてリードを覚えていくうちに見違えるようになりますよね。ダンスがうまくなるだけじゃなくて、彼女ができたり、就活もうまくいったり。社会人になってからも、姿勢がいいから自信があるように見えるみたいで仕事にも有利だと同期が言っていました。

キンタロー。 二宮さんも変わった?

二宮 すごく変わりました。というか、変わりたくて入部したんです。僕は中高と男子校で、部員が僕しかいない美術部でわりとひっそり生きていたんですよ。女子と話したことすらなくて、このまま社会に出たらまずい、と思って、あえて捕獲されたんです。四年間ダンスをやったおかげで、女性のいいところも等身大の姿も知って普通の人間になれました。それに、喘息も治ったんです。

キンタロー。 へえー。

二宮 たぶん胸を張って胸郭を広げていたからじゃないかというのが自己分析なんですが。背筋を伸ばすと内臓とかにもいいらしいですね。

新潮社 波
2020年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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