本好きにはたまらない リアル書店に足を運びたくなる3冊

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  • シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々
  • チャリング・クロス街84番地
  • 増補 書店不屈宣言

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本好きにはたまらない リアル書店に足を運びたくなる3冊

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 自粛生活が続くなかで困ったのは、書店に行けないことだった。単に本が入手できないという理由ではない。書店に行くたびにさまざまなものを吸収していたと、改めて感じる。

 そこで今回は魅力的な書店についての本を3冊紹介。ジェレミー・マーサー『シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々』(市川恵里訳)は、パリ左岸にある伝説の書店の二代目店舗を舞台にしたドキュメント。有名作家や詩人が出入りするこの店は朗読会の開催や図書室の存在など特色あふれるが、いちばん驚くのが、貧しい書き手や旅行者が無料で宿泊できたこと。著者はカナダからパリに流れ着いた元記者で、店を手伝いながらクセの強い店主や宿泊者たちと交流する日々が綴られる。青春小説の読み心地だが、書店ならではのエピソードや実在の作家や作品名が続々登場、本好きとしては楽しい。

 はからずも終盤で涙をこぼした思い出があるのはヘレーン・ハンフ編著『チャリング・クロス街84番地 書物を愛する人のための本』(江藤淳訳、中公文庫)。戦後まもない頃に、ニューヨークに住む一人の女性とロンドンの古書店の男性との間で始まった実際の手紙のやりとりをおさめた書簡集。はじめは単なる本の発注と発送の連絡だったが、どちらも文面からウィットと思いやりが溢れ、彼らの間に次第に友情が芽生えていく様が胸を打つ。文通の期間はなんと二十年にわたる。

 国内の書店関連からは、田口久美子『増補 書店不屈宣言』(ちくま文庫)を。1973年に書店員としてのキャリアをスタートさせ、ジュンク堂池袋本店副店長となった著者が、現場の社員たちに取材して、店頭での工夫や出版関連の傾向、業界の問題点などを浮き彫りにしていく。2014年に刊行されたものに改訂・削除・追記をほどこして17年に文庫化。当時はこんな話題があったなと振り返る点もあれば、問題が現在より切実になっていると思える点も。

 3冊とも書店で働く人間の魅力に溢れている。リアル書店に足を運びたくなる理由はそこかもしれない。

新潮社 週刊新潮
2020年6月11日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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