『交渉力』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
進次郎は「×」でトランプは「○」だって日本のためにオレが立つ!?
[レビュアー] 今井舞(コラムニスト)
達成したい目標がある時、相手を説得し、対立する意見をまとめる。それが交渉。弁護士時代を含め、大阪府知事、大阪市長、「維新の会」代表と、その全てにおいて「毎日が交渉だった」という著者。自らの経験に基づき、政治・行政だけでなく、日常生活においても、この「交渉力」がいかにものをいうかを説いたのが本書だ。
政治家時代、常に国とのバトルがよく話題になったが、本書では知られざる「職員たちとの闘い」もつまびらかに。人数を武器に陳情を繰り返し、疲労困憊を狙うという戦法に、「絶対に譲れないライン」を示し続けて解決を図ったという。交渉において、「これだけは譲れない」という点を決めることが何より肝要だと説く著者は、なぜ小泉進次郎環境大臣が国連総会スピーチで失敗したのかを、交渉の観点から考察。耳触りのいい発言をすることで人気を得てきた小泉大臣が、原発か火力か絞り込むことをせず、何が最優先なのか決めないでスピーチし、根拠なく「世界をリードする」と胸を張ったせいで、世界中から失笑されたと分析。
逆に、トランプ大統領については、人品骨柄はともかく、「交渉力」においては学ぶべき面が多々あると指摘。自分にとって絶対に譲れない獲得目標の絞り込みと、その他を捨てる決断力。まるでチェスの名手のように、シリアや北朝鮮相手に、最終的に有利になるよう事を運ぶ。一見荒唐無稽のようで、実は計算に基づいているトランプのネゴシエーターとしての優秀さを解説。
本書はコロナ禍が本格的になる直前に上梓されたのだが、吉村洋文大阪府知事の交渉力について、高評価する記述が散見された。自分とほぼ同じ歳で知事となった彼を、自らの後継者と見ている節も感じられる。今の知事の大車輪の活躍に、「世が世なら俺が」という悔しさ歯痒さがあるのでは。世界における日本の交渉力をアップさせるため、という見地から憲法9条改正必要説も述べていたが。現在の安倍政権の失墜っぷりで、今や憲法のけの字も言えない空気に。「だから世が世なら」。
本書を読んで交渉力をアップした誰かが説得すれば、「2万%ない」は再び覆るのかもしれない。