<東北の本棚>青春の歌震災後の古里
[レビュアー] 河北新報
<開けっ放しのペットボトルを投げ渡し飛び散れたてがみのように水たち>
自らを鼓舞するような表題歌が印象的だ。作者は石巻市在住の31歳で石巻日日新聞の記者。「塔短歌会」に所属し、地元の若手愛好家でつくる「短歌部カプカプ」代表も務める。
2016~19年に詠んだ353首を初の歌集に収めた。<ふと君が僕の名前を呼ぶときに吸う息も風のひとつと思う>。青春の日々を振り返る歌が並ぶ。
後半は記者の視点で東日本大震災後の古里を詠む。「君」や「僕」で成り立っていた世界が、がらりと変わる。
<塩害で咲かない土地に無差別な支援が植えて枯らした花々>。被災地にあふれた美談の危うさを、荒れ地の光景に重ねる。
一方通行なのは善意に限らない。<必要というのはせっかく復興庁の予算を充てられるからということ>。霞が関で決まる施策に地元自治体は振り回された。
震災を詠み、改めて青春の歌に目を通す。
<エンドロール終えて明らむ劇場で僕らは僕らの話をしてた>。「被災地」になる前の街で交わした、とりとめのない会話。普通の暮らしをいとおしむ気持ちが伝わってきた。
左右社03(3486)6583=1980円。