野中モモの「ZINE」 小さなわたしのメディアを作る 野中モモ著 晶文社

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野中モモの「ZINE」 小さなわたしのメディアを作る

『野中モモの「ZINE」 小さなわたしのメディアを作る』

著者
野中モモ [著]
出版社
晶文社
ISBN
9784794971715
発売日
2020/03/26
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

野中モモの「ZINE」 小さなわたしのメディアを作る 野中モモ著 晶文社

[レビュアー] 橋本倫史(ノンフィクションライター)

 コロナ禍によって、わたしたちの日常は一変した。緊急事態宣言が取り下げられた今、世界は日常を取り戻しつつあるけれど、日常を生きるわたしたちの感覚は以前とどこか違っている。のちの時代から振り返れば、それは「新しい生活様式」という言葉で説明されるのだろう。でも、わたしたちの日々は、たった7文字の標語に要約できるものではないはずだ。そこでおすすめしたいのが「ZINE」である。

 ZINEとは、「個人または少人数の有志が非営利で発行する、自主的な出版物」を指す。「同人誌」や「ミニコミ」など、時代とともに様々な呼び名が与えられてきた。本書は、「思春期から現在に至るまでずっと個人による小さな出版活動に励まされてきた」著者が、ZINEの面白さを伝える一冊だ。著者の個人的な体験や、ZINEを発行する人たちへのインタビューは、小さなメディアのたのしみを教えてくれる。

 この本を読めば、あなたもきっとZINEを作ってみたくなるだろう。ただ、中には尻込みしてしまう人もいるかもしれない。「なにかの文化に熱中した経験もなければ、創作とは無縁に生きてきた私が、自分でメディアを作って発信するなんて」と。しかし、著者が語るように、ZINEを作るからといって、「『世界に発信』しなくていい」のだ。あなたが作り上げたZINEを、知り合いに配ってみるだけでもいいし、誰にも見せずに引き出しにしまっておくだけでもいいのである。1枚の紙に何かを綴(つづ)ってみるだけでも、ZINEという小さなメディアは完成させられるのだから。

 「わたしなんて」と謙遜するあなたにも、他の誰にも書けない言葉がある。あなたの視点で世界を見ているのはあなただけで、それを言葉にできるのはあなたしかいないのだから。そして、もしも気が向いたら、あなたのZINEを誰かにそっと手渡してみて欲しい。本書が示すように、その先には広大な世界が広がっている。

読売新聞
2020年6月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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