生命の〈系統樹〉はからみあう デイヴィッド・クォメン著 作品社

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生命の〈系統樹〉はからみあう

『生命の〈系統樹〉はからみあう』

著者
デイヴィッド・クォメン [著]/的場知之 [訳]
出版社
作品社
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784861827969
発売日
2020/02/29
価格
3,960円(税込)

書籍情報:openBD

生命の〈系統樹〉はからみあう デイヴィッド・クォメン著 作品社

[レビュアー] 三中信宏(進化生物学者)

 生物進化を枝分かれする“系統樹(ツリー)”とみなす先入観は無数の生きものの多様性を階層的に理解するためのグラフィック・ツールとしては役立つ。しかし、分岐的な系統樹が現実の進化パターンをうまく表現できるとは必ずしもかぎらない。450ページにも及ぶ本書は、分岐するツリーに代わる新たな系統発生モデルとして、網状にからみあった“系統ネットワーク”が登場する舞台裏を究明した科学史の労作だ。

 しかし、本書に描かれる“からみあい”の様相は一筋縄ではいかない。太古の昔、細胞内に別の細胞が入りこんだとする「細胞内共生説」によれば異なる生物系統は複雑にからみあう。この説はリン・マーギュリスという稀代(きだい)の語り部を得て現代に華々しく復活した。

 第二に、1970年代の分子系統学の黎明(れいめい)期、リボソームRNA(核酸)の情報をもとに、真核生物と細菌に並ぶ第三の生命形態(ドメイン)である「古細菌(アーキア)」を発見したカール・ウーズが舞台に登場し、同僚フォード・ドゥーリトルをも巻き込んで全生物の起源をめぐる大きな論争につながった。際立つ個性をもつ彼ら研究者群像の織りなす人間関係のからみあいも本書のもうひとつの読みどころだ。

 さらに、生物のゲノム自体もまたからみあう。ゲノムを構成する遺伝子群の広範囲な「遺伝子編集」と「水平伝播(でんぱ)」の結果、たとえばヒトのゲノムにはヒト以外の生物の遺伝子が数多く組み込まれているからだ。生物間の遺伝子の相互乗り入れは“種”の壁を生物学的にも概念的にも突き崩している。

 近年の膨大な遺伝子情報を踏まえた系統ゲノム学のめざましい進展がもたらす複雑な系統ネットワークはおそらく人間の直感的な読解能力をはるかに上回っているだろう。われわれはこのからみあう現実をどのように理解すればいいのだろうか。訳文はとても読みやすい。事項索引があればもっとよかったのに。的場知之訳。

読売新聞
2020年6月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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