仏陀(ブッダ)バンクの挑戦 伊勢祥延(よしのぶ)著、上川泰憲(たいけん)監修  

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仏陀バンクの挑戦

『仏陀バンクの挑戦』

著者
伊勢 祥延 [著]/上川 泰憲 [監修]
出版社
集広舎
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784904213919
発売日
2020/04/08
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

仏陀(ブッダ)バンクの挑戦 伊勢祥延(よしのぶ)著、上川泰憲(たいけん)監修  

[レビュアー] 麻生晴一郎(ルポライター)

◆1万円で立ち上がる人々

 イスラム教国家バングラデシュの南東部、ミャンマーなどと国境を接する丘陵地帯には、ジュマと呼ばれる先住民族が住んでいる。人口約五十万人の大半が仏教徒で、かつては国境を跨(また)いで独自の王国を築いていた。現在は軍による弾圧や入植してきたイスラム教系住民らによる襲撃を受け、貧困に苦しんでいる。

 そこで現地の仏教系村民が事業を始めるための少額融資(マイクロクレジット)が二〇一〇年に始まった。仏陀バンクの名の通り、日本の仏教徒たちが始めた活動であり、融資の際には仏教を信じる心が信頼の証(あかし)となる。担保も利息もないものの、村民は借りたお金をきちんと返済し、お布施も差し出す。それらのお金は別の村民への融資に使われていく。本書は、この活動をゼロから築いてきた著者による活動の記録である。

 寄付でまかなう仏陀バンクの融資は一人一万円前後。都会化した生活感覚では、この程度の額で事業などできまいと思いそうだが、商品作物用の種を買うなど、一万円だけで絶望的な貧困から立ち上がれるジュマの人は多い。

 ただし、彼らは山奥の僻地(へきち)に暮らし、実に遠い存在でもある。近年、外国人の立ち入りは厳重に警戒されており、著者たちは軍や警察の妨害をかいくぐるようにして現地に赴く。現地スタッフの中には、大口の資金による支援活動を好んで袂(たもと)を分かった者もいる。こうした紆余(うよ)曲折が随所に出てくるのだが、これらは本当に支援を必要とする人にたどり着くまでの道のりが、いかに遠くて険しいかを示しているようにも思える。

 結果として仏陀バンクの事業は数十の村でしっかりと根を下ろしつつある。それは、仏陀バンクの仕組みのユニークさとともに、この仕組みを必要とする人たちに行き着くまでの労力を惜しまなかった著者や現地スタッフたちの頑張りが大きい。自分たちが本当に必要とされる場を探し求め、遠くてもけっしてあきらめない。そんな著者の意地のようなものから、コロナ禍以後の生き方のヒントを教わった気もする。

(集広舎 ・ 2200円)

伊勢 1960年生まれ。写真家。仏陀バンクのプロジェクトリーダーも兼ねる。

◆もう1冊

大杉卓三、アシル・アハメッド著『グラミンのソーシャル・ビジネス 増補改訂版』(集広舎)

中日新聞 東京新聞
2020年6月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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