『人類対新型ウイルス 私たちはこうしてコロナに勝つ』
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コロナの比ではなかったスペイン風邪の感染爆発
[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)
『人類対新型ウイルス 私たちはこうしてコロナに勝つ』(トム・クイン)は、二〇一〇年に刊行された『人類対インフルエンザ』に、新型コロナウイルスに関する補章を加えて復刊されたものだ。このため、インフルエンザに関する記述が大半を占めるが、新型コロナと共通する点も多く、また感染症の歴史は教訓に満ちているから、いま読んでおく価値の高い本だ。
ペストやコレラなどと並び、インフルエンザは何度も大流行を起こし、世界史を揺るがしてきた疾患だ。ただし一八世紀以降、大流行の頻度は確実に上昇した。産業革命以来、人々は都市に密集して住むようになり、これが感染症の温床となってきたのだ。現在、しきりに密の回避が叫ばれるが、人類は何度パンデミックを経験しても、過密化・都市化の流れは一向に変わりはしないのだ。
本書の白眉は、一九一八年に始まったスペイン風邪についての記述で、その症状の描写は読む者の背筋を寒くさせる。第一波より第二波の死亡率が格段に高かったこと、不適切な対策によって害が増していることなど、この百年前のパンデミックは現代の我々にとっての重要な警鐘を多く含んでいる。
また、将来の大流行が懸念されている鳥インフルエンザについても詳述されており、その恐ろしさはコロナの比ではない。喉元過ぎれば忘れられるが、ウイルスとの闘いこそは、常に人類の最重要テーマの一つなのだ。