美容整形をテーマにした新刊 「カケラ」湊かなえインタビュー 美容や健康に人は饒舌になる

インタビュー

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カケラ

『カケラ』

著者
湊 かなえ [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784087717167
発売日
2020/05/14
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

美容整形をテーマにした新刊 「カケラ」湊かなえインタビュー 美容や健康に人は饒舌になる

[文] タカザワケンジ(書評家、ライター)

美しくなったら、本当に幸せになれるのか? 

湊かなえ
湊かなえ

田舎町に住む女の子が、大量のドーナツに囲まれて自殺したらしい。明るく運動神経もよかったという女の子。モデルみたいな美少女だとも、学校一のデブだったとも噂され――。
湊かなえさんの新刊『カケラ』は、美容整形をテーマに、人の心に潜む容姿への思い込みを描きだし、一人の少女の自殺の謎を追う心理ミステリーです。
SNSが広がり、見た目へのこだわりが高まっている時代において、美の持つ力とは何か、幸せとは何かを問いかける傑作長編の刊行を前に、お話を伺いました。
また、湊さんは、四月一日より作品募集が始まった『第1回 高校生のための小説甲子園』の選考委員を務められます。新しい賞の開幕に当たり、高校生たちへの期待やエールをお話しいただきました。

美容や健康に、人は饒舌になる

─ 「田舎町に住む女の子が、大量のドーナツに囲まれて自殺したらしい」――そんな都市伝説のようなエピソードからこの小説は始まります。まずはこの物語を着想されたところからお話を聞かせてください。

 美容について書いてみませんか、というご提案をいただいたのがきっかけでした。集英社は「小説すばる」も、単行本も担当の編集者が女性で、プライベートな話の中にも最新の美容情報が出てきたりするんですけど、私はついていけないなと思っていたんです(笑)。その分野にはあまり興味を持っていないな、と。でも、今まで考えてこなかったことだからこそ、向き合ってみたら新しい何かが見えてくるんじゃないかなと思い、書くことにしました。

─ 美容クリニックの医師・久乃(ひさの)が、亡くなった少女・有羽(ゆう)と彼女の母親・横網八重子(よこあみやえこ)の関係者に話を聞いていくという形式で物語が進んでいきます。久乃と八重子はかつて同級生で、第一章には、同じく二人の同級生だった志保(しほ)が登場します。ドライブ感があって、語りの面白さを感じました。

 自分のダイエットの失敗談とか成功談とか、このお茶がすごく肌にいいのよとか、美容や健康に関する話って饒舌になるところがあるんですよね。みなさんそれぞれ自分のエピソードを持っている。それも痩せたとかきれいになったとかだけじゃなく、太ってしまったとか、病気になって大変だったとかいうマイナスなエピソードも。それで、最初の登場人物に大いに語らせました。

─ 読者も語りたいことがたくさんありそうです(笑)。次に登場するのは、如月(きさらぎ)アミという十代の女優です。鼻をもう少し高くしたいと、久乃のところにやってくる。登場する語り手の順番はどのように決められたのでしょうか。

 主人公にだんだん近づいていくように、ですね。主人公は二人いて、自殺をした有羽とその母親の八重子なので、この二人の同級生を交代で登場させました。それから美容や美容整形について、読者の方が入りやすいようにとも考えました。最初から美容整形の話に入ってしまうと一部の限られた人の話になってしまうので、最初の志保には多くの人が入っていきやすいダイエットの話から語ってもらう、という感じですね。
 今回、『カケラ』を書くに当たって、美容クリニックの先生にお話を伺ったのですが、なるほどと思ったことがあったんです。本人は目を変えてほしいって言っているけれど、先生から見たら、目より鼻を変えたほうがいいんじゃないかと思うことがある。でも、先生がそう提案することはないそうなんです。あくまで本人の希望に従うと聞いて、このエピソードはぜひ入れたいと思いました。まずはとっつきやすい分野から入って、次は整形の話に。次は男性に行ってみよう、と語り手を決めていきました。

ドーナツの穴が意味するところ

─ 最初の志保が同級生だった横網八重子の話をして、続いて如月アミが同級生だった有羽の話をする。読者としては、久乃はなぜ彼女たちから話を聞いているのか、この話はどこへ向かっているのか、という疑問を持ちつつ、だんだんと視界がクリアになっていきます。とくにアミのパートでは、全編を通してモティーフになっているドーナツのエピソードが生き生き描かれています。ドーナツを使おうと思われたのはなぜでしょうか。

 太っていた女の子が自殺したとして、その子の死が噂になるのはどういう状況だろう、とまず考えました。心に引っかかる、意味がありそうなものが死体と一緒にあったり、部屋にあったら気になるんじゃないかな、と。そのアイテムを何にするかはかなり考えました。美容がテーマでもあるので、やっぱり食べ物がいい。それも食べて美味しいというだけじゃなくて、形に特徴があったり、そこから空想が広がるものがいい。あ、ドーナツだ、と。
 ドーナツはその形から、食べ物というだけじゃない解釈が湧きますよね。みんなが自分自身のエピソードや亡くなった彼女のことを語るけど、本当に大事な中心は語っていない、という象徴にもなる。語られない中心への想像がふくらむ。それでドーナツがいいと思ったんです。

─ ドーナツは太りやすいというイメージもありますね。でも美味しいから罪悪感を持ちながら食べたりする。読者も頭の中にドーナツについてのイメージが詰まっていると思います。しかも登場するのは手づくりのドーナツで本当に美味しそうです。

 シンプルな手づくりの、いつでも食べられそうで実はもう何年も食べてないなっていうドーナツを書きたかったんです。よくよく考えたら、最近、家でドーナツをつくったりしないなって。私も子供の頃にホットケーキミックスでつくったドーナツを食べていたことを思い出したりしたんですが、きっと読んでる人の大半がそうなんじゃないでしょうか。

─ たしかにそうですね。手づくりのドーナツだから、つくってくれたお母さんがどんな人か、どんな思いを込めているかまで想像しながら読むことができました。第三章では、堀口弦多(げんた)と息子の星夜(せいや)という親子が登場します。二人は筋力トレーニングに打ち込んでいます。これはやっぱり男性が興味があることとして選んだのでしょうか。

 そうですね。よく雑誌などでも特集を見かけますから。それに子供の頃って、女の子のほうが自分より力持ちだったりすると、男の子はコンプレックスに感じるんじゃないでしょうか。男の人は女の人より力が強いものだとか、もうそういうステレオタイプな考え方はなくなりつつある時代かもしれないけど、まだまだ内心では気にしているんじゃないかなと思います。自分が仕入れてきた筋トレのミニ知識をすごく語って、俺、今、筋トレ頑張ってるんだって感じの人を出したいなと思いました。

─ 男性読者として、ちょっと痛かったですね(笑)。マッチョへのコンプレックスと、仕入れた知識を語りたがるマンスプレイニング的なところが。でも、同時にこの親子は二人ともいいやつだなとも思いましたね。

 彼らを皮肉るんじゃなく、この人たちはこの人たちなりに健康や美容に対してこう考えている、ということを書きたかったんです。堀口親子は有羽と八重子の親子に優しい目線を向けている人たちなので、一章と二章の二人が彼女たちの容姿をからかったり、見下してるようなところがあった分、温かい目線を向けている人を置きたいという気持ちもありました。彼らは二人ともストレートで素直な人たちなんです。

外見からできあがった内面に向き合う

─ 久乃と弦多は中華料理を食べながら話します。コースの料理が次々に出てくるのですが、語りと並行して食事が進行していく構成もユニークです。

 食べ物についての意見は、人物の個性をあらわすものだと思うんです。料理が一品運ばれてくるごとにうんちくを語る人っていたりするじゃないですか。

─ いますね(笑)。

 聞いてもないのに、食べ合わせのことを説明してくれたりとか、これは冷え性にいいんだよねとか。一緒に食べるシーンがあれば、その人の食に対する考え方とか、健康への向き合い方がわかると思って、今回は食べるシーンを積極的に入れてみました。

─ 食べるシーンが好きな読者も大勢いると思うので楽しめますね。出てくる料理にはモデルがありますか。

 そうですね。どれも食べたことのある料理です。ちょうど去年、書いている期間中に香港に行ったり、韓国で中華料理を食べたり、日本以外で中華料理を食べる機会がたくさんありました。揚げた肉と餡(あん)が別々に出てくる酢豚を食べたときには、この料理を小説に入れたいなと思ったりしましたね。

─ では、『カケラ』に出てくる料理は、世界のどこかに実在すると思って読んでいいんですね。

 はい。あと、その後の五章に出てくる柴山登紀子がアメリカ留学中のエピソードを話しますけど、あれは私自身が青年海外協力隊として訪問した国で体験したことです。飲茶(ヤムチヤ)のメニューが漢字だけでどんな料理かわからなくて、想像で注文していたという。

─ 印象に残るエピソードです。この後、さらに証言者が出てきて親子の姿が形づくられていき、最後に、八重子と有羽が語り手として登場し、自殺の謎に迫っていく。湊さんはこれまでも多視点の作品をお書きになっていますが、『カケラ』で新たにされたことはありますか。

 私のこれまでの作品って、人物の外見の描写をあまりしていなかったんです。読者のみなさんに、身近にいる人に置きかえて読んでほしいという気持ちがあったから。よほどその話に必要じゃない限り、体形がどうとか顔がどうとか髪型がどうとかを細かく描写したことがなかったんですけど、今回は外見の描写もしています。人間の内面を書きたいという気持ちがありながらも、外見からできあがった内面に向き合いたかったので。私のほかの小説より、登場人物の外見がイメージしやすいんじゃないかなと思います。

足りないのは外見ではなく、他者からの承認

─ 聞き手である久乃という女性の存在感もだんだんと増していきます。読者は、語り手の言葉の端々から、久乃はどんな人なんだろうなと想像しながら読むと思います。久乃について、湊さんはどんな人だと思いながらお書きになったんでしょうか。

 久乃は一つの理想像というか完成形ですね。美しくて頭もよくて社会的地位もあって、みんながうらやましく思うもの全部を持っていそうな人です。きっと彼女のクリニックに行ったら、痩せたいとか目がどうこうよりも、あなたのようにしてくださいと言いたくなるような、“こんな外見なら幸せ”みたいな人。だけど、その人の立場になってみたらどうだろう。自分をそんなにも幸せとは思ってないし、自分を完璧とも思ってないんじゃないか。幸せってなんだろう、完璧ってなんだろう。完璧に見える彼女の中にも思い込みや固定観念があって、それが崩れていったらいいなと思いながら書いていました。

─ プロローグで自分の考えを明確に語っていた彼女が、エピローグでどんなことを語るのか。最後に本を閉じたときに“カケラ”という言葉の意味が浮かび上がってきます。

 実はプロローグとエピローグは「小説すばる」の連載では書いていなくて、今回、単行本化にあたって書いたんです。私自身も、この物語を書く前と書いた後とで、自分の中でどういう変化があるんだろうと思いながら書いていきました。プロローグとエピローグを書いたとき、連載途中でははっきりしなかった、もやもやしていたことをようやく明確にできたと思いました。

─ 以前、同じ集英社で『白ゆき姫殺人事件』をお書きになっていて、対になる作品としても読めると思いました。『白ゆき姫~』は美しい女性が亡くなって、その真相をめぐってSNSや報道が過熱していく物語でした。今回の作品も、美容への関心やSNSのセルフィーなど、見た目へのこだわりが強まっている時代と呼応していると思います。湊さんご自身は見た目へのこだわりについてどうお感じですか。

 みんなが求めているのは、美へのこだわりというよりは、他者からの承認なのかなと思うんですよね。外見を求める根底にあるのは承認欲求ではないかと。第一章の志保のエピソードには、実は私自身のことがけっこう入っていて、実際に小説家になってから十キロ以上太ったんですよ。でも、当時そのことを私自身はあまり気にしていなかったんです。なぜかというと、きっと自分の書いた小説を面白いと言ってくださる方がいて、外見とは違うところで認めてもらえているという満足感があったからだと思います。
 何か一つ人から認めてもらえるものがあれば、見た目のことを気にしなくて済むんじゃないでしょうか。外見を気にしている人の話を聞いてもどかしいのは、足りないのは外見じゃないんじゃないかなと思っても、それを直接伝えるのが難しいことですね。
 そうは言いながら、ふっと我に返ったときに「あ、だめだめ。やっぱり太り過ぎ。ダイエットしようかな」とか思ったりもしますけど(笑)。

─ よくわかります(笑)。『カケラ』を読んでいると、そもそも太ってるとか痩せてるとか、どこにラインがあるんだろうとか、外見がよくなれば本当に幸せになれるのかなとか、うすうす感じていたけど、言葉にできなかったことが書かれていると感じました。

 なりたい自分が明確なときは、人ってあんまり不安じゃないと思うんです。でも、なりたい自分が見えないと不安になって、自分の外見を変えようと努力する。幸せってきっと、なりたい自分を見つけられることなんじゃないかと思います。

『第1回 高校生のための小説甲子園』に寄せて

イラストレーション=結布
イラストレーション=結布

湊かなえさんが選考委員を務める
『第1回 高校生のための小説甲子園』について、お話を伺いました。

─ 作品募集が四月一日から始まりました。湊さんがこの企画を応援してくださる理由を教えてください。

 四十七都道府県を回ってサイン会をさせていただく機会があったんですが、中高生の方々から小説を書くことについての質問をたくさん受けました。こんなにも小説を書きたいと思ってる方がいるなら、少しでもアドバイスしたり、一緒に勉強できる場があればいいなと思ったんです。

─ 予選を勝ち抜いた方が集英社に集まり、その場でテーマに沿った小説を書いてもらう。ほかの公募賞にはないやり方ですね。

 じっくりと時間をかけて書くのも大事ですが、決まった時間の中で与えられたお題について書くのも、トレーニングとしてはすごくいいんじゃないでしょうか。実は私も経験があるんです。テレビ番組の企画で、出演しているタレントさんをテーマに短い小説を書いてみてくださいと急に言われたことがあるんですよ(笑)。そんな無茶ぶりあるかなと思いながらも、書いてみたら発見があって面白かった。同じテーマでも参加者の数だけ小説が生まれるので、それをもとにワークショップみたいなことができたら、次に小説を書く大きな力になると思います。

─ 選ばれた方たちが顔を合わせるのもまさに「甲子園」。本選に集まった人たちがやがて小説家になって、あのとき会ったよね、みたいなエピソードが生まれそうですね。

 学校で小説を書いているのは少数派かもしれないけど、全国には小説を書いてる子がこんなにたくさんいるってことを実感してほしいですね。その後も連絡を取り合ったり、切磋琢磨できるといいと思います。

─ 最後に、応募を考えている高校生のみなさんにアドバイスをお願いします。

 小説を最後まで書けないという悩みをよく相談されるんですが、今日はここまで書くぞと思ったら、とにかく書き進めてほしい。文法的に正しいかどうかを気にしたり、上手に書こうと思ってしまうと先に進めなくなるので、考えなくていいと思います。書いてる間は、自分が書いてるものが一番面白いんだっていう自己暗示をかけるといいですね。そういう強い気持ちを持って最後まで書ききったものを送ってほしい。上手な作品よりも面白い作品を待ってます。

募集要項については、公式サイト(https://www.shueisha.co.jp/koushien/)をご確認ください

湊かなえ
みなと・かなえ●作家。
1973年広島県生まれ。2007年「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞、受賞作を収録した『告白』でデビュー。同作で09年本屋大賞を受賞。12年「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門、16年『ユートピア』で山本周五郎賞を受賞。18年『贖罪』がエドガー賞候補となる。その他の著書に『夜行観覧車』『白ゆき姫殺人事件』『母性』『山女日記』『リバース』『未来』『落日』等多数。

聞き手・構成=タカザワケンジ/撮影=天日恵美子

青春と読書
2020年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

集英社

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