[本の森 恋愛・青春]『持続可能な魂の利用』松田青子/『またね家族』松居大悟

レビュー

9
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持続可能な魂の利用

『持続可能な魂の利用』

著者
松田 青子 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784120053061
発売日
2020/05/20
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

またね家族

『またね家族』

著者
松居 大悟 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065182918
発売日
2020/05/20
価格
1,815円(税込)

書籍情報:openBD

[本の森 恋愛・青春]『持続可能な魂の利用』松田青子/『またね家族』松居大悟

[レビュアー] 高頭佐和子(書店員・丸善丸の内本店勤務)

 いきなり個人的な話をさせてもらうが、小学校から高校時代にかけて、何度も電車内で痴漢被害にあってきた。制服を着ているだけで、性的対象にされる。相手が抵抗できない存在ならば何をやってもいいと考える人間が、多数存在する。それが自分の生きる社会であることを、子どもの頃から痛感してきた。そんな私にとって、松田青子『持続可能な魂の利用』(中央公論新社)の帯にある「この国から『おじさん』が消える」という言葉は、とても爽快だ。

 主人公は、「おじさん」の策略によって理不尽に仕事を奪われた30代の派遣社員・敬子。妹が同性の恋人と暮らす国でしばらく過ごし帰国したところ、日本の女の子たちの弱々しさに気付き、衝撃を受ける。そんな時に、笑顔を見せないパフォーマンスをするアイドルグループを偶然に知り、「おじさん」によってプロデュースされた存在であることを理解しながらも、中心にいる少女××に夢中になってしまう。敬子の元同僚でピンクのスタンガンを携帯している歩は、「おじさん」に対する怒りを溜め込んでいる。××は、アイドルとしてある仕事を依頼されたことで、日本社会の闇を知る。敬子と××の出会いがきっかけとなり、ついに「おじさん」の作った社会に息苦しさを感じている人々が動き始める。

 登場人物が「おじさん」から被害を受ける場面の描写はリアルで、冷静に読めないほどの臨場感に溢れている。一方、物語には「おじさん」が消えた未来に生きるものたちからの視線も挟まれ、社会の歪さが客観的に分析される。他者への想像力に乏しく傲慢な「おじさん」は、大人の男性だけでなく若い男性や女性の中にも存在する。自分の中に「おじさん」を作らない努力も必要なのだと思った。過去の悔しさを乗り越えられるような、力の湧く小説だ。

 松居大悟氏『またね家族』(講談社)を読めば、誰もが自分の家族のことを考えてしまうのではないか。東京で劇団を主宰する竹田のもとに、福岡に住む父親から久々の連絡が来る。がんで余命数ヶ月だと言う。母親に暴力をふるって離婚した父親に対し、憎しみを抱いたこともある竹田だが、これがきっかけとなって故郷に通うようになる。家族との関係やコンプレックスと向き合いながら、東京では劇団内に響く不協和音に悩み、女優として有名になっていく恋人に複雑な感情を抱く。そして、新しい仕事に挑戦する機会がやってくる。

 自分を見て、褒めてほしいという強烈な願望。いいところを見せたいのに、かっこ悪くなってしまう気まずさ。読んでいるこちらもウワーッと声を出したくなるほど恥ずかしく、切なくなるのは、主人公が目にする光景や出会う人々を、繊細かつ個性的に描写し、読み手を引き込む力があるからだと思う。映像と舞台の世界で活躍中の著者だが、ぜひ小説も描き続けてほしい。

新潮社 小説新潮
2020年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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