『兄の終い』
- 著者
- 村井理子 [著]
- 出版社
- CCCメディアハウス
- ジャンル
- 文学/日本文学、評論、随筆、その他
- ISBN
- 9784484202082
- 発売日
- 2020/04/01
- 価格
- 1,540円(税込)
書籍情報:openBD
<東北の本棚>疎遠な関係 複雑な感情
[レビュアー] 河北新報
ある日突然、身内の死に接したら、どう受け止めるだろう。肉親とはいえ、疎遠な関係だったとしたら、悲しみより先に戸惑いや驚き、動揺など複雑な感情を抱くかもしれない。自分がただ1人の身元引受人ならなおさらだ。
本書は、宮城県を舞台にした実話に基づく手記だ。54歳の兄が、多賀城市内のアパートで遺体で発見された。昨年10月の夜半、滋賀県の自宅に塩釜署からかかってきた電話で知らされる。その場面から本書は始まる。著者は、予期せぬ兄の「終(しま)い」で一切の事務処理を担う立場に立たされた2人きょうだいの妹。
現実は待ってくれない。済ませなければいけない死後のさまざまな事務手続きが目の前に立ちはだかる。両親は既に他界している。親密だったか疎遠だったかなどという故人との関係性は全く意味をなさない。プロローグに続き、5日間の出来事を時系列に並べている。妹には、幼少から勝手気ままで、学業や仕事が長続きせず自営業を廃業して以降、経済的に自立していない兄の存在が常に疎ましかった。
兄の前妻とともに多賀城、塩釜両市で、葬儀やアパートの清掃、残された子どもの引き取り手続きなどを行う。面倒で手間のかかる作業を短期間で済ませていく様子を伝えながら、肝心の兄の生前の思い出などはあまり語らない。
とにかく早く済まして全て片付けたい。そんな本音が読み取れるほどにドライな筆致で経過を軽妙に、時にピクニックにでも来たかのように楽しげに描く。
しかし、兄が病気を患い生活保護を受けながら息子を育てていたことを知り、「こんなことになるのなら、あの人に優しい言葉をかけていればよかった」と妹は悔やむ。
死をきっかけに、互いの関係性を見つめる時がある。本書がその一例だ。著者は滋賀県在住の翻訳家でエッセイスト。
CCCメディアハウス03(5436)5721=1540円。