『女帝 小池百合子』
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学歴詐称疑惑を突き詰める 執念の取材が「女帝の野望」を砕くのか
[レビュアー] 泉宏(政治ジャーナリスト)
「あなたは一体、何者なのですか」……。
首都の女帝と呼ばれ、コロナショックに果断に対応する都知事として、連日メディアで「ステイホーム」「東京アラート」などのカタカナ英語を連発して再選を狙う小池百合子氏。政界の実力者が「恐ろしい人(女)」と肩をすくめ、「初の女性総理候補」との声もかかる同氏の実像に、執念の取材で迫った力作だ。
謎多き大女優の生き様を活写した『原節子の真実』などで、高い評価を受けたノンフィクション作家・石井妙子氏。時には自らをジャンヌ・ダルクに模し、政界の荒波を強かにくぐり抜けて権力の階段を上り続ける“女勝負師”の隠された素顔を、様々なエピソードとそれに絡む関係者の証言で、浮き彫りにした。
なかでも、石井氏が突き詰めようとしたのは、小池氏の「カイロ大卒」という学歴の真偽。すでに、小池氏の政治家人生の節目毎に囁かれてきた「学歴詐称疑惑」だが、石井氏は今回、エジプト・カイロでの同居人女性の生々しい証言と証拠を掘り起こすことで、政治家・小池百合子の“闇”の深さを世に問おうとしている。
小池氏が再選に挑む都知事選(6月18日告示・7月5日投開票)目前の刊行。コロナ対策でSNS上にあふれるハッシュタグ「#百合子さん頑張って」にも、冷水を浴びせる内容だが、通販サイトでは在庫切れが続く状況だ。
しかし、小池氏はどこ吹く風。カイロ大の声明も踏まえ、出馬会見での卒業証書の開示を求める質問にも「すでに原本も示し、カイロ大も正式に認めている」とにべもない。「もはや旧聞、今更話題にしても、誰も振り向かない」と高を括っているようにみえるが、その姿勢には、疑問がなお膨らむ。
都知事選は2大政党の自民党と立憲民主党が独自候補擁立を見送り、事実上の「小池氏信任投票」の様相とされる。知事選直前に出版する「政治的あざとさ」を指摘する向きもあり、大手メディアの反応も「様子見」が目立つ。ただ、石井氏にとっては、コロナ禍に揺れる中での都知事選にぶつけたのは、本意ではなかったともみえる。
選挙結果に拘わらず、「あなたは何者?」との石井氏の問いは、今後も小池氏に付きまとう。石井氏の母校・白百合女子大の校章がジャンヌ・ダルクに授けられた紋章と同じ白百合であることも、何やら因縁めく。何事にもへこたれない女帝と、「念の女」ともみえる石井氏との闘いの結末は、なおみえてこない。