犯した罪の記憶も曖昧に……老人福祉施設と化した刑務所の今

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ルポ 老人受刑者

『ルポ 老人受刑者』

著者
斎藤 充功 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784120053030
発売日
2020/05/08
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

犯した罪の記憶も曖昧に……老人福祉施設と化した刑務所の今

[レビュアー] 高橋ユキ(フリーライター)

 高齢になって罪を犯し、法廷で裁かれる者たち。かつて私も、そんな「アウト老(ろう)」たちの刑事裁判を取材し、書籍にまとめたことがある。本書は、そんな彼らが、その後に向かう場所について知れる書籍だ。

 1941年生まれ、「老人受刑者」とまさに同世代の著者は約30年前、高齢者が多く収容されていた広島の呉刑務支所を取材したことがきっかけで、老人受刑者の実情に関心を持ち、取材を続けてきたのだという。

 刑事施設の被収容者の高齢化は年々進んでいる。とくに再犯者における高齢者の割合は高い。出所しても“前科のある高齢者”に仕事は見つからず、再び罪を犯し、刑務所に舞い戻ってしまうのだ。本書はこうした老人受刑者の現状や出所後の生活実態がルポ形式で綴られている。

 いま刑務所には認知症や、排泄の介助が必要な受刑者も収容されている。認知能力が衰えてきた老人受刑者らは「養護工場」と呼ばれる工場で、パズルのピースをはめ込むなど“指の運動”に励む。本来受刑者が工場で行う生産作業とは異なるものだ。日々の食事も、咀嚼が難しい受刑者には、食材を細かく刻んだ特別なメニューが与えられる。

 第二章において元法務省矯正局長・西田博氏は「介護が必要な高齢受刑者に限れば、現場は福祉施設化している」と指摘しているが、まさにその通りの現状があった。

 しかし本来刑務所とは、罪を犯した者が刑に服する場である。本書に登場した認知症受刑者は、自身の犯した罪を問われ「窃盗だったと思いますが、違うんですかね」と曖昧に答え、出所予定日すら覚えていない有様だった。

 自分がなぜ刑務所にいるのか自覚できない状態で日々を過ごす……もはや“矯正教育”とは程遠い実態がそこにはある。認知能力に衰えがみられる被告人すら、ときに有罪となる刑事裁判のあり方も関係しているのではないか。

新潮社 週刊新潮
2020年6月25日早苗月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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