レジ袋有料化ってどのくらい意味があるの? わかっていることと未解明なことを峻別し、関係者に取材して解説する『海洋プラスチック 永遠のごみの行方』書評

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海洋プラスチック 永遠のごみの行方

『海洋プラスチック 永遠のごみの行方』

著者
保坂 直紀 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
自然科学/自然科学総記
ISBN
9784040823430
発売日
2020/06/10
価格
990円(税込)

書籍情報:openBD

レジ袋有料化ってどのくらい意味があるの? わかっていることと未解明なことを峻別し、関係者に取材して解説する『海洋プラスチック 永遠のごみの行方』書評

[レビュアー] 三島勇(科学ジャーナリスト 東京大学大気海洋研究所特任研究員)

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(評者:三島 勇 / 科学ジャーナリスト 東京大学大気海洋研究所特任研究員)

 スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどでタダでもらえるレジ袋が、7月から有料となる。ようやくといった感があるが、有料義務化に「抜け道」があるようだ。レジ袋が、原料の重さにして25%以上のバイオマスプラスチックが含まれていれば、無料にできることを本書で知った。バイオマスプラスチックは、とうもろこしなどから作る生物由来のものだから自然界で分解する? 残念ながらすべてが分解するわけではない。

 有料化免除について、政府は地球温暖化対策に寄与する旨を指針に明記しているという。バイオマスプラスチックを広める目的は石油の節約や地球温暖化の抑制であるが、「地球にやさしい」という印象を有料化を免れる免罪符に利用しているのではないか、と著者は疑う。廃プラスチックの「吸収源の問題」に、こっそりと石油資源の節約という「供給源の問題」を紛れ込ませている。その違和感は拭えない。

 現代は、利便性・経済効率性を重視する社会を維持したまま、それによって起こる環境問題に対処するという、困難な状況に陥っている。問題解決を図ろうとしても、事業者や市民などの利害関係者のいずれにもいい顔をしているうちに、その目的がずれていってしまう。しかも、環境問題は、国内外の利害だけでなく、問題発生の要因も複雑に絡み合い、問題の影響に関しても、科学的に不明なことや意見の相違も少なくない。このため説得的で実現可能性のある対応策を策定するのが難しい。包装容器から心臓病の医療機器やジェット機にまで欠かせないプラスチックの汚染問題も例外ではない。

 海洋プラスチックについて、新聞社の科学記者として経験を重ねサイエンスライターとなった著者は、読者に寄り添った視点と培った取材力をもとに、問題点を手際よく整理し、解決への道筋を模索する。ペットボトルや漁網などが打ち上げられる海岸や河川敷に出向き、実態を見る。科学論文を渉猟し、わかっていることと未解明なことを峻別する。研究者や環境保護団体、事業者団体にインタビューし、事実を確認する。そして、それでもわからないことは、なぜわからないのかを考え、説明する。

 こうした手法から浮かび上がる汚染の問題は驚くことばかりだ。

 プラスチックは、人口が集中する陸地の沿岸部だけでなく、北極海や南極海でも発見される。北太平洋にはプラスチックごみが東西に広がる「太平洋ごみベルト」が存在する。ただ、こうして見つかるプラスチックはほんの一部だ。重く、すぐに沈んでしまうものは除いても、99%が行方不明とされる。

 どこに消えたのか? ペットボトルなどは、海面や海岸で太陽光の紫外線と波などによって砕かれてマイクロプラスチック(大きさ5mm以下、以降MP)とされている。MPを食べた魚が死ぬとMPとともに海底に落ちる。海の生き物たちが出す粘液にMPがからめとられて沈んでいく。ただ、いずれも仮説であり、研究はまだ進んでいないという。

 MPは、東京湾のカタクチイワシ、英国のムール貝からも見つかっている。米国ではボトル入りの水1Lに100個ほど含まれており、水道水の4個程度という数を大きく上回るという研究もある。しかし人間は不要物を排泄する。MPが体内に入っても「過度に不安になる必要はない」と著者はいう。ただ、「マイクロプラスチックに含まれる添加剤や海中で吸着した有毒な化学物質が体内に移行することが、動物実験でたしかめられている。現実の世界でマイクロプラスチックを摂取したことによる人間への影響については、いまの時点では不明だ」と記すことも忘れない。

 問題の解決のカギはわたしたち市民であり、著者は市民の力に期待する。マイバッグを使い、ごみを拾っても、「わたし一人が努力してみたところで焼け石に水なのではないか」という気持ちは誰にでもあろう。しかし、マイバッグを繰り返し使えばレジ袋は確実に減る。海岸でごみ拾いを続ければ海に漂うごみは間違いなく減る。ペットボトルの飲料水を買わないなど、プラスチックを使わない生活様式を「カッコいい」と思う人たちが増えれば、大きなうねりになり社会が変わっていくだろう。

「わたしたち一人ひとりにできるのは、余計なプラスチックの使用を減らし、使い終わってごみになったら、きちんと処理のルートに乗せること。そして、アンテナの感度を高めておくことなのだろう」。市民の小さな積み重ねが世界を変えると信じたい。

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レジ袋有料化ってどのくらい意味があるの? わかっていることと未解明なことを…

▼保坂直紀『海洋プラスチック 永遠のごみの行方』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321907000700/

KADOKAWA カドブン
2020年6月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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