たとえ奇妙な習俗でもまずは黙ってよく見ること

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世界の性習俗

『世界の性習俗』

著者
杉岡 幸徳 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
社会科学/民族・風習
ISBN
9784040823355
発売日
2020/04/10
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

たとえ奇妙な習俗でもまずは黙ってよく見ること

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 スーダンなどで現在も行われている「女子割礼」がときどき話題になる。クリトリスや小陰唇を切除する(性交できないよう膣を縫い合わせる場合もある)という、激しい苦痛を与える傷害行為である。しかしある人々にとっては、これはまともな大人になるために不可欠な通過儀礼だ。「女性に対する傷害は許されない」という否定論と「かれらの文化を尊重すべし」という肯定論が対立するが、どうすべきかを言う前に、黙ってよく見るというステップが不可欠だろう。男性が女性を支配して強制的に傷を負わせるなら「文化」などと言っている場合ではなく犯罪だが、その地域の女性はそこまで無力で無知なのかを知りたい。また、女性全体の考えをひとくくりにすべきでもない。

 杉岡幸徳『世界の性習俗』には、女子割礼だけでなく、世界中の奇妙な習俗がたくさん紹介されている。われわれから見れば奇妙どころか人権侵害であるものも、当事者が激しく望んでいるものを外野が否定する場合、その根拠が問われる。

 中国の少数民族モソ族には「結婚」「夫婦」の概念がない。子どもが生まれればすべて女性の家で育て、父親が誰かなど問題ではない。未開でも野蛮でもなく、性に関するタブーがわれわれとは違うところにあるだけだ。現在ではモソ族のライフスタイルも変わりつつあるが、時代とともに廃れる風習は廃れ、支持されるものが生き残る。それをじっと見ている著者の落ち着いた書き方がとてもいい。

新潮社 週刊新潮
2020年7月2日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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