自分を知って成果を生み出す。ドラッカー・スクールのセルフマネジメント

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自分を知って成果を生み出す。ドラッカー・スクールのセルフマネジメント

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

ドラッカー・スクールのセルフマネジメント教室』(ジェレミー・ハンター 著、 稲墻聡一郎 執筆協力、プレジデント社)の基盤になっているのは、著者であるジェレミー・ハンター氏が、ロサンゼルス・クレアモント大学院大学のドラッカー・スクールで35年間かけて教えているセルフマネジメントの講座。

全世界のエグゼクティブたちが、この授業を受けるために集まってくるのだそうです。執筆協力を手がけている稲墻聡一郎氏もそのひとり。

在米中にジェレミー氏を出会ったことから彼の授業を経験したいと思い、当時客員研究員として滞在していたスタンフォード大学からクレアモントに移籍。

1年間集中的に受講したというのです。

この授業を通じて「変わるのは難しい」と思われた自分の思考や行動のパターンの背景に気づき、少しずつ変化が訪れ、人生や仕事における選択肢が増えていきました。

周りの人たちとの関係性の質も変化し、自分が望んでいた結果に近づいていくことを感じました。(「はじめに 『人生を変える授業』へようこそ」より)

ジェレミー氏は長年にわたり、学生たちの評価による「ティーチャーズ・アワード」を受賞し続け、彼の講座は「人生を変える授業」と呼ばれているのだとか。

そして彼が提唱するのが、経営学者ピーター・F・ドラッカー氏の考え方を原点とする「セルフマネジメント」。

それは変化の激しい時代のなかで疲弊することなく、創造的であり続けるため、ともに新しい未来をつくろうと提案するもの。

ドラッカー氏の伝えたかったメッセージを、21世紀において本質的に体現しているのだと著者はいいます。

では、なぜセルフマネジメントを学ぶべきなのでしょうか?

その答えを、第2章「セルフマネジメントとは何か」のなかから探し出してみたいと思います。

ドラッカーのマネジメント論

「まず自分をマネジメントできなければ、他者をマネジメントすることはできない」(34ページより)」

ご存知の方も多いと思いますが、これはドラッカーの有名なことば。

自分の内面を理解できていない人に、組織やチームのマネジメントなどできないと説いているわけです。

さらにドラッカーは、「マネジメントの役割は、成果をあげることにある。これこそ実際に取り組んでみれば明らかなように、もっとも難しく、もっとも重要な仕事である」とも述べているそう。

当然ながら、企業や組織、チームにおいての最重要課題は成果を生み出すこと。

したがって成果が出ていない人や組織が成果を出すためには、まず思考の幅を広げ、いままでとは違う選択肢を生み出す必要があります

また、さらにそこから行動し、積み重ねた結果から学び続けなければならないということ。

いわば、そうしたサイクルこそが成果をもたらすことになるわけです。(34ページより)

自分が見ているものは本当にそこにあるか

ドラッカーはまた、「最初から事実を探すことは好ましいことではない。すでに決めている結論を裏づける事実を探すだけになる。見つけたい事実を探せない者はいない」とも言っています(『経営者の条件』)。(35ページより)

人は、自分が見たいものを見ようとするものですが、そういった「ものの見方」は、各人の経験や価値観、過去に蓄えた知識や個々の嗜好によって決まります。

いわば人は自分自身のフィルターを通して物事を見て、それを現実として捉えるということ。

ところがその現実は、その人の期待や価値判断、思い込み、バイアス、身体感覚、感情など、多くの要素が複雑に絡み合った結果として映し出されたものであるわけです。

しかもほとんどの人は、自分のなかにそういったフィルターがあることは意識していないものでもあります。

でも、セルフマネジメントを学ぶ目的は、自分のフィルターを外し、オプションを増やし、よりよい結果を得ること

自分の内面を客観的に理解し、自分自身をマネジメントできるようになって初めて、他者に対する影響力を発揮できるようになるということです。

とはいえ私たちはしばしば、この順序を逆にしてしまいがち。

つまり自分の内面に目を向けるのではなく、いきなり“自分以外の誰かやなにか”を変えようとしてしまうのです。

セルフマネジメントの先にイノベーションがある

学生時代も社会に出てからも、「自分はいまなにを感じているのか(感情)」とか、「自分の身体にどんな感覚があるのか(身体感覚)」など、生きるうえで重要な問いと向き合う機会はほとんどないといっていいのではないでしょうか?

しかし、自分の考えていることはなんとなくわかるとはいえその奥に潜む感情や感覚に気づかないまま闇雲に行動していたのでは、その行動の結果についての評価ができなくて当然。

「がんばっているのに結果に結びつかない」人は、そもそも「どういう結果を目指しているのか」を自分自身がわかっていなかったりすると著者は指摘しているのです。

かといって、自分のことだけに集中してまわりの人・環境・組織に目を向けなかったとしたら、結果を出すことは不可能。

自分を取り囲む他の人の存在もあってこそ、“望む結果”が出せるからです。

ネットワークモデルの時代においては、ひとりで完結する仕事などほとんどないも同然。

「自分に向き合って瞑想していれば世界が救われる」というような、単純な問題ではないということです。

自己の内面を見つめ、自分の感情や願望を知り、そのうえで外側の世界に働きかけ、よりよい結果に近づけていくこと、これがセルフマネジメントです。(37ページより)

セルフマネジメントができるようになると、チームや組織(企業やNPO、地方自治体や行政など)のマネジメントで成果を出せる可能性が高まると著者はいいます。

そして、その先にイノベーションがあるということ。

自分が望む社会を実現するために、権力やパワーで強引に変化させようとしたり、社会システムそのものを無理にコントロールしようとしてもうまくいくはずがありません。

それよりも大切なのは、「私はどんな社会を望んでいるのか」「どんな社会であれば幸せを感じるのか」というような自分自身の願望や感情を起点として行動し、周囲に影響を及ぼしていくこと。そうすれば、やがて少しずつ社会は変わっていくという考え方です。(35ページより)」

こうした“原点”を軸としたうえで、以後は「ストレスと休息」「神経系のマネジメント」「IRマップを利用した“望む結果”の入手法」など、さまざまな考え方やメソッドが紹介されていきます。

いままさに激動が続いている時代だからこそ。本書を利用してセルフマネジメントを学んでおきたいところです。

Photo: 印南敦史

Source: プレジデント社

メディアジーン lifehacker
2020年7月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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