『邦人奪還』
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【『邦人奪還 自衛隊特殊部隊が動くとき』刊行記念対談】伊藤祐靖×石破茂/当事者が語る自衛隊の「リアル」
[文] 新潮社
「こんな自衛官がいるよな」
石破 伊藤さんはあまり本を読まないとおっしゃるけれど、そう思えないほど今回の『邦人奪還』は読みやすかったですね。こんなこともありうるだろう、という状況もさることながら、こんな自衛官がいるよな、となんとなく顔が思い浮かぶのがまず面白かった。それと、やはりこの総理は誰だろう、官房長官は、とモデル探しをしながら読みました。ピタリと当てはまる人はいませんが、実は政権を動かしているのが官房長官だという描き方で、そのパターンもあるなと。
我々政治家からすると、共感する部分と、同時に啓発される部分があるので、政治家にこそ、この本を読んでほしいと思いました。
先が読めない状況になった今、この本を読む意義が高まっていると思います。米空母「セオドア・ルーズベルト」が感染者を出して南シナ海からいなくなり、これみよがしに中国の空母が台湾近海に来ました。米中、北朝鮮、韓国、台湾、そしてロシア……複雑な要因が影響しあい、想定されるシナリオは何通りもあって、ひたすらそれを事前に考えておくのが防衛当局および政治の仕事です。
伊藤 過去に『自衛隊失格』という自伝も出したのですが、守秘義務があってかゆいところに手が届かず、書けないことが多かったんです。なかなか本当のところ、リアルな現場を伝えられなかった。もちろん今回も、北朝鮮でクーデターが発生したことをきっかけに、日本人拉致被害者を救出する、という設定は事実ではありませんが、自衛官の考え方や生々しい感覚は伝えられたかもしれません。
石破 読むと、結構書きたいことを書かれている気がしましたけど(笑)。
伊藤 そうでしたか(笑)。現場がどんな思いで任務に携わっているか、これを読むとわかってもらえる気持ちはあります。
石破 そうでしょうね。自衛官が読んだらどう思うのか、知りたくなりました――ここで読者の方のために補足しておけば、今言った「自衛官」と「自衛隊員」とは異なります。よく混同されるのですが、前者は災害救助の場面などで国民の皆さんが目にする、迷彩服や制服を着た隊員のことで、後者はその自衛官に加えて背広を着た防衛省の官僚なども含んだ呼び名です。
伊藤 自衛官ならば、「あるある」とか「こんなやつがいるよな」と頷きながら読むと思います。
石破 政治家もそうですが、自衛官には「こういう国でいいのか」の前に「こういう自衛隊でいいのか」「こんな自衛隊教育でいいのか」と真面目に考えている人も多い。自分たちで考えて変えていかなくてはと思う人が増えるといいですね。
伊藤 映画の『シン・ゴジラ』で官邸と自衛隊の現場のやりとりが話題になり、私も取材を受けました。政治家と現場のやりとりは興味が高く、重要な局面なので、苦労して何度も書き直した箇所です。ですから、石破さんが本書を読んでくださると聞いて、ドキドキしていました。
石破 「こういうことは起こりうる」という想定を検証する機会になったと思います。もともと私はフィクションで「リアル」を伝えることは、手法として大いにありうると思っているんです。福井晴敏さんの小説、『亡国のイージス』(1999年に刊行、2005年に映画化)が発売された時も、すぐに買って一晩で読みきりました。
その後、防衛庁長官を拝命していた間に広報課長が来て「大臣、東宝から映画化の話がありましたが、断りました」と。理由を聞いたら、「艦長がイージス艦を乗っ取って、北朝鮮と組んで日本政府に攻撃を仕掛ける、そんな海自の名誉を汚すようなものは、もってのほかです」。
「読んだことは?」と聞くと「ありません」。「それならとにかく読んでみて」と。現状の法律にどんな欠陥があるか、自衛隊とは何なのか、よくできたフィクションの設定は、当事者にとっても、考え直すいいきっかけになると思います。
伊藤 ノンフィクションも含めて本を書き始めて、防衛省あたりからダメ出しがあるのではないかと思っていました。
石破 福井晴敏先生もディテールをよく調べておられて、訂正は1箇所だけ、艦船を攻撃する戦闘機はF-15ではなくF-2で、というくらい(笑)。あと、映画では、艦長が裏切るのはいくらなんでも酷いからと、副長になりました。
伊藤 確かに艦長はつらいですね(笑)。



























