日本のお弁当文化 権代美重子著

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日本のお弁当文化

『日本のお弁当文化』

著者
権代 美重子 [著]
出版社
法政大学出版局
ジャンル
社会科学/民族・風習
ISBN
9784588300523
発売日
2020/04/16
価格
2,420円(税込)

書籍情報:openBD

日本のお弁当文化 権代美重子著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

 今や“BENTO”は英語やフランス語の辞書にも載っていて、世界の共通語になろうとしているのだそうだ。確かに、本書の序章で紹介されているパリの日本のお弁当専門店や、ニューヨークの「BentOn Cafe」では、私たちの日常になじんだお弁当やおむすびが店頭に並べられている。

 コロナウイルス感染防止の自粛期間中、テイクアウトや宅配でお弁当の良さを再認識した方も多いのではなかろうか。一つの容(い)れ物に主食とおかずとデザートまで詰め合わせてあり、彩りや栄養バランスも配慮されている。こんなに楽しい「お弁当」という食文化は、どのように出来上がったのだろう。

 第1章「『働く力』とお弁当」によると、その振り出しは、外に働きに行くとき持参する携行食である。里の民にも山の民にも海の民にも、それぞれの環境と必要に沿った弁当があった。田植えの時期の「コビリ(小昼)」の煮しめ・おにぎり・巻き寿司(ずし)。山仕事に行く木こりの「一升わっぱ」。漁師の「船弁当」。それらはただ腹を満たすための食べ物に留(とど)まらず、働く人びとは集って食事をとることで互いを労(いたわ)り合い、豊漁や収穫をもたらしてくれる神々に感謝を捧(ささ)げる機会も得た。

 一方、戦時の雑兵の「戦う力」を支えたのは、打飼袋(うちがいぶくろ)という3メートルくらいの筒状の布の袋だった。糒(ほしいい)や煎米(いりまい)などをこれに入れて、一食分ずつくくってたすき掛けにして、雑兵たちは戦場を駆けたのだ。今の私たちが「携行食」と言われてすんなり納得できる形ではあるけれど、ちょっと味気ないですね。

 というわけで第2章は花見弁当、第3章は観劇弁当、第4章は駅弁、第5章はおもてなしの松花堂弁当だ。本文オールカラーが嬉(うれ)しい。第6章「食の思想とお弁当」で再び神饌(しんせん)や共食について考え、結びの章で現代のキャラ弁や弁当男子の話題にも触れて、まさに幕の内弁当のように充実した美味(おい)しい一冊になっている。

 ◇ごんだい・みえこ=1950年生まれ。日本航空の客室乗務員などを経て、観光振興のアドバイザーを務める。

読売新聞
2020年6月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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