『ニューヨーク・タイムズが報じた100人の死亡記事』
- 著者
- ウィリアム・マクドナルド [編]/矢羽野薫 [訳]/服部真琴 [訳]/雨海弘美 [訳]
- 出版社
- 河出書房新社
- ISBN
- 9784309207971
- 発売日
- 2020/05/21
- 価格
- 4,620円(税込)
書籍情報:openBD
ニューヨーク・タイムズが報じた100人の死亡記事 ウィリアム・マクドナルド編
[レビュアー] 橋本倫史(ノンフィクションライター)
リンカーンからモハメド・アリまで、100人の死亡記事が収録された大著だ。著名人の死が、同時代にどんなインパクトを与えたのか、生々しく綴(つづ)られる。たとえばトロツキーの死は、「二六時間にわたり生への執念を燃やし続けた後、本日午後七時二五分、レオン・トロツキーは息を引き取った」と書き出される。
ニューヨーク・タイムズは「控え目な死亡記事がきわめて多い」と編者は言う。しかし、日本の読者からすると、控え目どころか読みごたえがある死亡記事ばかりだ。
たとえば、メルヴィル。彼は亡くなった当時、忘れられた作家となっており、死亡記事は「軽い扱い」に留(とど)まっていると編者は指摘する。だが、ニューヨーク・タイムズはメルヴィルの作品を「重要な文学的達成」と評し、彼が忘れられた作家になっているのは、現代の読者がメルヴィルを「読む価値がないと捨て置いている」せいだと締めくくる。ここから伝わってくるように、死亡記事とはひとつの評伝、つまり批評であり、死を追悼することは、きわめて文学的な営みなのだ。矢羽野薫、服部真琴、雨海弘美訳。(河出書房新社、4200円)