蜂起〈インティファーダ〉 鈴木啓之著 東京大学出版会/中東テロリズムは終わらない 村瀬健介著 KADOKAWA

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蜂起  〈インティファーダ〉

『蜂起 〈インティファーダ〉』

著者
鈴木 啓之 [著]
出版社
東京大学出版会
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784130363013
発売日
2020/03/30
価格
6,380円(税込)

書籍情報:openBD

中東テロリズムは終わらない イラク戦争以後の混迷の源流

『中東テロリズムは終わらない イラク戦争以後の混迷の源流』

著者
村瀬 健介 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784041085011
発売日
2020/03/28
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

蜂起〈インティファーダ〉 鈴木啓之著 東京大学出版会/中東テロリズムは終わらない 村瀬健介著 KADOKAWA

[レビュアー] 篠田英朗(国際政治学者・東京外国語大教授)

 『蜂起〈インティファーダ〉』は、パレスチナ占領地の抵抗運動の背景を、精緻(せいち)な分析で詳細に説明した学術書である。1987年に開始された「蜂起」は、それ以前の抵抗運動の蓄積と、PLO(パレスチナ解放機構)の政治外交の展開があって可能になったものだった。

 ただしそれも冷戦終焉(しゅうえん)後の時代に変質した。パレスチナ問題はまだ解決されていないが、「アラブの大義」という言葉は聞かれなくなった。中東では、2003年のイラク戦争以降に新しいテロリスト勢力が台頭した。「アラブの春」によって混乱は増幅した。

 『中東テロリズムは終わらない』は、TV局中東支局長を務めた著者が、情熱的に現代の中東を取材した内容をまとめた書である。「イスラム国」人質事件、パリ同時多発テロ、ボートで海を渡る難民、暗躍する民間軍事会社、反政府勢力と政府軍を渡り歩いて戦い続ける若者、などの様々な取材対象の貴重な記録が、次々と紹介されていく。

 著者が最も紙幅を割くのは、イラク戦争開戦時の状況をめぐるアメリカとイラクの取材である。2003年のイラク戦争は、当時のブッシュ政権高官による情報操作をへて開始された。アメリカのパウエル国務長官は、国連安全保障理事会において、イラクに大量破壊兵器が隠されていると主張した。だがそれは嘘(うそ)の常習犯だった一人のイラク難民の虚言を誇張して作り上げた演説だった。パウエル演説に関わった高官は、著者とのインタビューで後悔の念を表す。

 その後、著者は、イラクに行き、化学兵器の秘密工場と誤認された平凡な種子精製工場を訪れる。その著者の胸には、中東に積み重なった「不正義や腐敗への怒り」が去来する。

 日本から離れた遠い地の人々の苦難を、果敢な取材を通じて真摯(しんし)に受け止めようとする著者の渾身(こんしん)の力作である。日本のジャーナリズムの可能性を見た思いになる。

 ◇すずき・ひろゆき=1987年生まれ。東京大特任准教授

 ◇むらせ・けんすけ=76年生まれ。TBS記者。

読売新聞
2020年6月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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