大学生と接する全ての方に読んでほしい1冊

レビュー

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大学生のストレスマネジメント -- 自助の力と援助の力

『大学生のストレスマネジメント -- 自助の力と援助の力』

著者
齋藤憲司 [著]/石垣琢麿 [著]/高野明 [著]
出版社
有斐閣
ISBN
9784641174566
発売日
2020/04/07
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

大学生と接する全ての方に読んでほしい1冊

[レビュアー] サトウタツヤ(立命館大学総合心理学部教授)

1 大学生のストレス――時代性と普遍性

 本書を手にとったとき、福島大学で経済学部と行政社会学部の教職免許取得希望者に対して、「教育心理学(発達と学習の心理学)」を教えていたときのことを思い出した。「アイデンティティーとその危機」を講じた後の学生の感想シートである。「自分と同じ悩みを持っている人がいるとは驚いた。そしてそのことを研究している学問があることに驚いた」というようなものであった。今から25年以上前のことだが、覚えている。

 その彼にとって、学問というのは自分の経験や悩みなどを扱ったりはしないし、ましてや、人間の悩みごとに法則性があるなどとは考えたこともなかったのであろう。それまでは幸せな人生を送ってきた証拠である。そして揺れる青年期を迎え、教育心理学を受講して驚いたのであろうか。

 本書『大学生のストレスマネジメント』の帯には「全学生必読」とある。とはいえ、発達には個人差があるのだから、高校生から大学院生までが手にとってほしいと思う。学校制度に縛られる「大学生」という言い方よりも「青年」という言い方をした方が良いかもしれない。また、高校・大学・大学院で「教える立場」にある人こそが手に取ってほしい。自分は教科教育や部活を一生懸命やっているのだという高校の先生、自分は教えているのではなく研究をしているという大学教員の方、大学院所属で学部生には講義するだけですからという人。そういう皆さんにこそ、まずは手元に置いておいてほしい。もちろん、大学等でストレスやストレスマネジメントを講じている方には必携である。

 本書には学生相談機関でカウンセリングを行っている著者3名がカウンセラーとして経験した大学生の「エピソード」がちりばめられている。そんなことあるのか? と思うようなエピソードもあるかもしれないが、ない話ではないのだ。読者の個人個人からしたら信じられない経験をしている人が、そのことは言わずに目の前にいるのかもしれない。本書のエピソードは事例そのものではないが、多くのカウンセリング事例から結晶化された記述であり、事実そのものではないが、迫真性があり、真実である。

2 大学生活はストレスだらけ?

 あまり揶揄するつもりはないが、文部科学省の学校教育に関する委員会に属するある人が「子どものころ、夏休みは嫌だった。早く学校に行きたかった」と述べていて微苦笑した。なぜなら、学校に通う子どもたちが、そう思っているかと言えば(大学も含め)、ちょっと違うのではないかと思ったからである。学校に行きたくて行きたくてしょうがない人が、学校に行きたくない子どもたちのことを含めて学校のデザインができるのか、ちょっと気になったのである。先生と呼ばれる人たちは、ある種の偏りを持ちながら、目の前の大学生や大学院生と出会っている存在である。その偏りを中和する必要がある。

 今の学生達のことは分かっているようで分からないはずだ。自分の経験から考えることはできるだろうが、そこには限界がある。まず、どのような生活上の出来事がストレスに変化しやすいか、その内容を知ることが必要だろう。それを深刻化させないために気をつけること、自分がどのような人間であるか知ること、これもまた重要である。

 本書の各章のエピソードを読むと、実に様々なことが学生のストレスになっているのだと気づかされるし心配にもなる。第2章以下のタイトルを拾ってみる。2章「学習・勉強」3章「課外活動・学外」4章「友人関係」5章「親」6章「恋愛と性」7章「SNS/ゲーム」といった具合である。余談だが、このストレスという語、文化庁の調査(平成14年度)「カタカナ語の認知率」で堂々の第1位に輝いている(97.4%)。それだけ身近な現象なのである。

 生活全てがストレスなのだと言われると「お先真っ暗」という感じだが、大学生が経験する生活上の出来事はストレスになるだけではなく、人生に潤いを与えるものでありえることもまた、言うまでもない。なお、本書は「ストレスマネジメント」に関するものであり、たとえストレスがあったとしてもそれとうまく向き合い乗り越えていく姿勢が通奏低音になっている。

3 ストレス研究の起源と生活ストレス

 そもそもストレスは機械工学の専門用語であった。生理学者のハンス・セリエがラットを対象として、個体を脅かすような有害な状況(寒い/外傷/薬物)に晒したところ、共通の症状が見られたという。「副腎皮質の肥大」のような身体症状が主たるものであったが、不安のような心理症状も共通の症状であるとされた。こうしたことが心理学者・社会学者の関心をひいた。有害状況としてのストレッサー、動物(人間を含む)のストレス反応、は単に生理現象ではないのだ、というような関心が持たれるようになったのである。本書の8章「非常時!」で描かれている事故(加害・被害)、9章「喪失」において描かれている失恋や近親者のとの死別のような状況こそが、ストレッサー的な状況として当初は想定されていた。では、それがどのようにして生活上の出来事へと拡張されたのだろうか。

 社会学者のホルムズたちは、生活上の出来事(ライフイベンツ)は、それがどのようなものであって再適応の努力が必要であると考え、標準的な尺度を作った。「配偶者の死」を数値100とし、結婚を50とすると、様々な出来事はどれくらいのインパクトがあるのだろうか。親密な家族の死亡=63、自分のケガや病気=60、学校が始まる=26、引越し=20だとのことである。ついでに述べれば、クリスマス=13。この調査の結果からもわかる通り、生活上の出来事はそれがどんなことであっても、個人の心理に何らかのさざ波を立てるものであり、それに押しつぶされることなく共存していくことこそが求められているし、実際にそれが可能である。生活することはストレスと共に生きることなのかもしれない。では、生活上の様々な出来事とどのように付き合っていけばいいのだろうか?

 本書には各節ごとに「ここで言いたいこと!」という形のまとめがあり、内容を振り返るだけではなくストレスをマネジメントするためのヒントとしても読むことができる。たとえば、「だましのテクニックを知ることで怪しい勧誘をみぬく(3章)」「人間関係にはスキルが必要(4章)」「愛情と束縛は違う(6章)」などである。さらに各章には「こころの柔らかワーク」があり、これは、自分を見る視点をもつことで心の柔らかさをつくりあげることを目的としたワークを行うことができる。一人では難しいかもしれないが、講義等で担当者の指導のもとに行うなら大学生たちにとって意義あることであろう。「こころの柔らかワーク」のうち最終章内の「援助資源レーダーを作ろう」は、自分を中心にしたとき、どんな人たちの関係の中に自分がいるのか、を可視化することを試みるワークである。必要なときに頼れる人がいる、ということを常に意識できるようになっている。私見であるが、悩み事というのは相談する人がいないから肥大化する。相談する人がいるとひらめいただけで悩み事の半分はなくなるのではないかと思う。

 ストレスフルな状態を一人で解決することのみが推奨されていると早とちりしてはならない。最終章「支えあう関係へ」では、他者に頼ることの重要性も指摘されている。ここで他者とはカウンセラー等の専門職の場合もあるが、友人・仲間も想定されている。もちろん、人から頼りにされた場合には自分が他者を支えるということになるから「支えあう関係」、いわゆるピアサポートが重要になるわけである。人は調子がいいときにこそ他者の悩みやストレスを共感できるかどうかが大事である。常に人のことに目配りできる人であれば、困っている時・ストレスがある時に他者からの助けを得ることができる。これこそが感情的知能(いわゆるEQ)が意味するところである。

4 With コロナ時代の生活とストレス

 大学は一種の通過点であり一生を過ごす場所ではない。多くの人は高校から大学に入り、大学で様々な経験をしながら、将来を見据えて次のステップに進んでいく。そのプロセスには多かれ少なかれ乗り越えなければいけない生活上の出来事がある。本書はストレスとそのマネジメントという観点から青年(主として大学生等)の生活を描いたものである。いくつかの生活上の出来事はそれを経験しないように注意すれば防げるものであるし、他のいくつかの生活上の出来事については経験後に回復することが可能である。

 1章のテーマ「新しい生活に入る」を経て各章で扱う様々な経験をして時にストレスが大きくなったとしても自分や仲間や専門家の力を乗り越えて、10章のテーマ「将来どうする?」について考えながら、卒業を迎えて次のステップに移行する、というのが本書における大学生等のプロセスモデルであろうか。様々な生活上の出来事をそれがストレスとなったとしても、乗り越えたりやり過ごして、生活を送っていく(留年や退学も当然あるがそれを挫折と決めつけるわけにもいかない)。必要なら援助を受ける。要請することも必要だ。親や友だちはストレスにもなるし支援にもなる、それもまた人生、ということが本書の示す大学生活のモデルである。

 さて、こうしたモデルが通用しないのが、2020年の世界的状況である。本書はもちろんコロナ禍を想定して準備されたものではないから、8章のテーマ「非常時!」にパンデミック状況の記述はない。しかし、大学生の視点からすれば、本書の内容から現在の状況に対するヒントを読み取ることもできるはずだ。多くの大学では講義が始まっているから2章で描かれている状況が本来の大学生ライフであったと想像することができるかもしれない。3章では悪質商法のことが紹介されている。これなどはネット社会が広がっているパンデミックの今こそ新しい問題が始まっている可能性もある。そして7章のテーマ、SNS/ゲームには、今だからこそ誰もが自身を振り返るためのヒントが隠されている。

 人間のストレスに関することは、確実に存在しているにも関わらず、実証的な研究が行いにくい。研究倫理の問題が絡むから実験研究ができないのである。本書は既に述べたようにカウンセラー等として学生相談機関で実践活動した研究者たちがその経験をもとに描いたものである。大学生の多くが手に取って読み進めることが望まれるし、そのためにはストレスマネジメントなどの科目で本書が使われることが望ましいのだが、最後にもう一度、教える側の立場のあらゆる人にとって、手元において一読することが重要だということを強調して筆をおきたい。

 なお、本書を大学等の授業・ゼミで使用する場合には「こころの柔らかワーク」のワークシートがウェブサポートとして提供される。大学生のストレスそのものを扱うゼミは少ないだろうが、ゼミでの副読本のような使い方ができるかもしれない。

有斐閣 書斎の窓
2020年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

有斐閣

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