コロナ禍の日常を生々しく描いた嘘偽りのないアンソロジー

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仕事本 わたしたちの緊急事態日記

『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』

著者
尾崎世界観 [著]/町田康 [著]/花田菜々子 [著]/ヤマシタトモコ [著]/川本三郎 [著]/立川談四楼 [著]
出版社
左右社
ISBN
9784865282832
発売日
2020/06/23
価格
2,200円(税込)

コロナ禍の日常を生々しく描いた嘘偽りのないアンソロジー

[レビュアー] 道岡桃子(フリーアナウンサー)

 令和2年4月7日(火)あなたは何をしていましたか?

 そう、緊急事態宣言が出された、あの日だ。あの日から、必要最低限の外出のみとされ、多くの店や人は自粛を余儀なくされた。私たちフリーアナウンサーも大打撃を受けた。レギュラー番組は終了し、イベントは軒並み中止、事務所も閉館し、あっという間に実質無職になってしまった。緊急時に人の命を救える仕事、と誇りを持っていたのに、アナウンサーは不要不急の贅沢品!と言われているようでショックを受けた。正直ツライ。

 本書では、スーパーの店員、女子プロレスラー、葬儀社スタッフ、留学生など77人の緊急事態宣言後の生活が、本人による日記形式で紹介されている。大家族モノや「新婚さんいらっしゃい!」が大好物な私にとって、他人の私生活を覗けるなんて、こんな面白いことはない! 野次馬根性丸出しで読み進めたものの、そんな自分が恥ずかしくなるほどに、コロナ鬱、廃業の危機、命懸けで患者と向き合う医療従事者まで……それぞれの生活が激変するさまが生々しく描かれていた。嘘偽りのない、これは貴重なアンソロジーだ。

 なかでも、62歳パン店勤務の女性が、夫の一周忌にお坊さんが呼べず、ウインナーロールにカレーパンにぶどうパンも焼いて、息子夫婦と孫たちで「孤独のグルメ」を見ながらご飯を食べたという4月20日の日記が好きだ。コロナは悲しいけれど、家族団欒の雰囲気に心が和む。こんな日常のひと時が、実は最も贅沢ではないかとさえ思う。

 コロナによって日常が変わった。家族ですら思うように会えなくなり、隔離され、オンライン、ディスタンス……七夕の織姫と彦星みたい。今、目の前にいる人と、もう二度と会えないかもしれないと思うと、ロマンチック? いや、そもそも、コロナでもコロナでなくても、一期一会なんだよな。と改めて思う。いつどこで何があるかわからないから。明日死ぬかもしれないから。だからこそ、家族も友達も世界中の人も大事にしたいよ。まずは、いつもゴミを回収してくれるおじちゃんに元気に挨拶することから始めよう!

 みんなコロナ禍でもがいている。もう正直疲れたけど、まだまだ戦いは続く。私も無職ではいられないので、この原稿を書いているッ! これからお仕事がくるといいな。

 今回の、この「緊急事態宣言」も、いつか歴史の教科書に載るのだろうか? それを教えるのもオンライン授業なの……?? ふと思った。

新潮社 週刊新潮
2020年7月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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