『「聞く力」こそがリーダーの武器である』
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信頼とは自己、相手、相互を理解すること。リーダーのための「聞く力」の基本
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
リーダーにとっての最強のスキルは、「聞く力」。
『「聞く力」こそがリーダーの武器である』(國武大紀 著、フォレスト出版)の著者は、そう確信しているのだそうです。
なぜなら「聞く力」とは、「相手を理解する力」だから。逆にいえば、会社組織で起こる人間関係の問題は、すべて「相手に対する理解不足が原因」だということ。
事実、「上司が部下の話を聞かない」「経営幹部が現場の話を聞かない」など、あらゆるところでコミュニケーションが崩壊しているのではないでしょうか?
そこで本書では、日ごろ多くのリーダーが悩んでいる「部下との関係」や「部下の育て方」「リーダーの成長」などの解決策を、現場で起きている実例を交えながら紹介しているわけです。
「聞く」という一見シンプルで受動的にも思える行為が、いかに能動的で奥が深く、人を動かし、人を成長させるほどのパワーを持っているか、その神髄を学んでいただけると確信しています。(「はじめに」より)
きょうは第2章「リーダーのための『聞く力』の基本」のなかから、「なぜ、話を聞いても信頼関係が生まれないのか?」をクローズアップしてみたいと思います。
「聞く」とは相手を理解すること
信頼関係を築くうえで最も大切なのは、「聞く」こと。とはいっても、ただ聞くだけでは信頼関係は生まれないとも著者は指摘しています。
信頼関係をつくるには、「聞き方」と「信頼関係の基本構造」を知っておく必要があるというのです。
まず、やってはいけない聞き方が、信頼関係を損なう「自分本意な聞き方」。
相手のことを聞こうとせず、自分に必要な情報を引き出そうとか、あるいは自分の正しさを証明するために相手の弱点を聞き出そうとするようなアプローチです。
(部下)「田中課長、今度の新しい企画について相談したいのですが」
(上司)「あ、その企画の概要を教えてくれる?」
(部下)「あの、ご相談したいのは企画の内容ではなくて……」
(上司)「まず、概要を聞かせてくれ。でないとコメントもできないから」
(部下)「……いえ、そうではなくて……」
(65ページより)
たとえばこのケースでは、部下がしたかったのは「新しい企画のメンバーから外してほしい」という相談。
ところが上司は、自分の知りたい情報を伝えてくれと自分本位な聞き方をしたわけです。そのため部下は、相談すらできなかったということ。
上司としては部下の話を聞いているつもりなのでしょうが、このような聞き方では、部下と信頼関係を築くのは困難。
信頼関係をつくりたいのであれば、「聞き方」の基本は「相手を理解しようとする姿勢で聞くこと」だということです。
「聞く」には、「相手の話を聞く」という“話の内容面”と、「相手の気持ち(感情)を聞くという“心理面”があるもの。
相手を深く理解するためには、この2つの側面をフォローすることが大切だという考え方です。(64ページより)
相手の気持ちを聞く方法
相手の気持ちを聞く際のポイントは、相手の「非言語メッセージ」に意識を向けて聞くこと。
非言語メッセージとは、顔の表情、声のトーン、体の動きなど、相手の言語以外から発せられるメッセージを指します。
それらをよく理解することで、「相手がどんな気持ちなのか」が理解できるわけです。
そして相手の気持ち(感情)が理解できたら、相手の感情に呼応(共感)することが大切。
上司と部下のやりとりでいえば、部下の表情を見れば、相談しづらい様子はわかるはず。そういった場合であれば、たとえば「表情が険しいように見えるけど、どうしたの?」と、相手の感情に合わせて聞くことができるのです。
その結果、部下は「私の気持ちを察してくれている」と安心できるということ。
些細なことではありますが、たしかに重要なポイントであるといえそうです。(66ページより)
信頼関係のトライアングル
著者によれば信頼関係の基本構造は、「自己理解」「相手理解」「相互理解」からなるトライアングル構造になっているのだそうです。
信頼関係とは、自分と相手との二者間における関係性なので、一方通行のまま良好な関係が生まれることはあり得ません。
にもかかわらず、上司と部下との場合だと、上司から部下への一方的な会話が見受けられるものだと著者は指摘しています。
信頼関係は「双方向」である必要があり、相手理解と同時に自己理解も大切。
なお自己理解では、「自分が大切にしたいこと(自分の価値観)はなにか?」について理解を深める必要があるといいます。
自分が大切にしていることをないがしろにされると、人は幸せを感じることができません。
たとえばもし「自由」が大切な価値観だったとしたら、自由裁量が与えられない仕事には大きな苦痛を感じることになってしまうわけです。
自分が大切にしたいことを大切にすることで人は幸せになれます。それが自分を大切にするということです。そして、自分を大切にできる人は、他人も大切にできます。
古い考え方のリーダーは、自己犠牲してこそ他人を幸せにできると勘違いしている人が多いですが、それは単なる偽善者に過ぎません。 自分を大切にできるリーダーだからこそ、部下のことも大切にできるのです。(69ページより)
次に相手理解。
相手理解のポイントは自己理解の裏返しで、すなわち「相手の大切にしたいこと(相手の価値観)はなにか?」を理解すること。
相手からの信頼を得るためには、「相手の大切にしていることを大切にする」が基本になるのです。
仮に部下が自己啓発の時間を大切にしているのであれば、そのことに理解を示し、少しでも自己啓発のための時間を確保してあげれば、部下からの信頼を得ることができるでしょう。
しかし完璧である必要はなく、なによりも大切なのは、少しでも理解しようとする姿勢。
自己理解と相手理解を繰り返していくと、お互いに価値観がぶつかり合ってしまう場合もあります。
とはいえ、違う価値観がぶつかり合うことで、むしろ相互理解は深まっていくものでもあります。
同じ価値観でつながっていれば居心地はいいでしょうが、そこに「新しいなにか」が生まれることは多くないはず。
価値観が異なっているからこそ、新しいものが創造されていくということです。
大切なのは、異なる価値観に対してお互いの理解を深めていくことだと著者は主張しています。それが双方にとっての学びであり、成長につながっていくからです。(67ページより)
部下の成長は、上司の器の大きさに比例するもの。つまり部下の成長を願うのなら、己の「器」を磨き、大きくしていくことが大切だというわけです。
難しそうに思われるかもしれませんが、聞くことが苦手な人であっても、いまから聞く力を身につけることは充分に可能だと著者は断言しています。
Photo: 印南敦史
Source: フォレスト出版