不安定な青春期 少女の心理を巧みに描いたサスペンス小説

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  • 少女は夜を綴らない
  • オーダーメイド殺人クラブ
  • 少女には向かない職業

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不安定な青春期 少女の心理を巧みに描いたサスペンス小説

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 青春は輝かしい思い出ばかりではない。心が不安定なこの時期には、ネガティブな行為に安らぎを見出してしまう少年少女もいるだろう。逸木裕『少女は夜を綴らない』は、仄暗い行為の魅力に取り憑かれた少女が主人公の物語だ。

 中学三年生の理子は、ある悩みを抱えていた。彼女は加害恐怖という強迫性障害を抱えており、凶器になりそうな刃物を見かけると、自分は人を傷つけてしまうのではないか、という不安に駆られるのだ。その気持ちを静めるために、身近な人間の殺人計画を「夜の日記」と名付けた記録帳に記していた。殺人計画を綴る事で心の均衡を保っていた理子だが、近所で起きたホームレス殺害事件と、彼女の秘密を知る悠人という少年の出現によって、そのバランスは崩れていく。

 複数の謎を絡ませながら、激しく揺れ動く少女の心理を巧みに描いたサスペンス小説だ。架空の殺人計画という不道徳な行為に耽溺する理子だが、実はそのような行いをせざるを得ない理由を、彼女は密かに抱えていた。本書は、追い詰められた心を救済することは出来るのか、というテーマを持った青春小説でもある。

 学校という閉鎖的な場は、ときに孤独な魂同士を引き寄せ、事件を引き起こす。辻村深月『オーダーメイド殺人クラブ』(集英社文庫)が、まさにそのような青春ミステリだ。クラス中から「リア充」認定される中学二年生の小林アンは「特別な存在」となるため、昆虫系と呼ばれる徳川とある計画を練る。スクールカーストという、息苦しい型から解放されるために足掻く若者たちの姿が鮮烈に描かれた小説である。

 インモラルな行いに生きる術を見つけ、強い絆で結ばれ合う少女同士を描いたサスペンスの傑作と言えば、桜庭一樹『少女には向かない職業』(創元推理文庫)である。無職で酒癖の悪い義父に悩まされる中学二年生の大西葵と、同じクラスで目立たない存在の宮乃下静香。ふとした事がきっかけで交流を持った少女たちの、生き残りを賭けた壮絶な戦いを描いた犯罪小説である。

新潮社 週刊新潮
2020年7月16日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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