教養の会計学 田口聡志著

レビュー

3
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教養の会計学

『教養の会計学』

著者
田口 聡志 [著]
出版社
ミネルヴァ書房
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784623088355
発売日
2020/04/20
価格
3,080円(税込)

書籍情報:openBD

教養の会計学 田口聡志著

[レビュアー] 稲野和利(ふるさと財団理事長)

 「会計」と聞くと「簿記」を思い浮かべ、すると反射的に「退屈」という名の危険信号が点滅する。多くの人に共通する反応であろう。しかし、本書はそのような固定観念を大きく覆す。要するに面白いのだ。そして間違いなく読み手にとって有用である。最先端の会計研究を意識する本書は、構えを広く取り、会計以外の領域との接点も強く意識し、会計を超えて会計を理解することに挑戦する。

 会計は自動計算システムではない。例えば、企業会計においてはキャッシュフローから自動的に利益は導かれず、利益を計算する過程では準拠すべき基準や方法の選択の問題が必ず発生する。つまり、人間による意思決定が介在する。本書では「会計とは、多様な情報を巡る、多様な人間の、多様な意思決定の相互作用からなるものである」という認識の下、「ゲーム理論」や「経済実験」の手法を有用なツールとして活用する。その結果、例えば「IFRS(国際会計基準)への基準完全統一の可否」という問題に関しては、「『唯一高品質な基準』を作ったとしても、世界がそこに収れんしていくことは、必ずしも必然ではない」ということが示唆される。このように会計という制度デザインを考える上でも刺激に富む材料が提供され、そこからまた次の議論の手がかりが提示される。

 AI活用の進展により会計実務者の職が失われるという一般的な言説にも著者は動じず、むしろAIの助けにより業務内容がより高度化する可能性が指摘される。そのような近未来においては会計における新たな「教養」として「会計の多様性を捉える力」と「会計のそもそも論を絶えず問いかけることのできる力」が求められるという著者の主張は説得力に富む。

 各章の終わりに記された読書案内は総計80冊超にも及ぶが、本書で得た知見を更に深めようとする読者には格好のガイドとなる。企業経営者にも是非読んでもらいたい1冊である。

◇たぐち・さとし=同志社大教授。公認会計士。著書に『デリバティブ会計の論理』『実験制度会計論』など。

読売新聞
2020年7月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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