問題は解決しなくても逃げてもOK。これからの時代を生きるための思考法
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
いま、なにかの問題を抱えていて、それを解決しなければならないと思っているのなら、まずはその“錯覚”から覚める必要がある。
なぜなら、すべての問題は起こるべくして起こっているから。
『新装版 問題は解決するな』(Kan.著、フォレスト出版)の著者は、そう主張しています。
問題は、人が解決するのではありません。では、人は何をすればいいか。目を覚まして、日々起きてくる出来事とただ出会っていくことです。社会がつくっているしくみにがんじがらめになり、眠らされている自分に気づくことです。
そうすれば、自分の中にある罪悪感や無価値感、怒り、怖れ、悲しみ、そんな感情を、そのまま見てあげることができるようになります。今は錆ついている自分の力を、思い出せるようになります。そして、問題をそのまま受け止めて、解決せずに生きることを選べるようになります。(「はじめに」より)
そうやって生きていけば、自分自身のなかに毎日を幸せに過ごせる種が見つかり、「これでいいんだ」と思えるようになるのだということ。
「誰かから教えられたから」ではなく、自分自身でその道を歩けるようになるというわけです。
だから、矛盾は矛盾のままでいいというのです。むしろ、人生が矛盾でいっぱいだったとしたら、順調にいっていると捉えるべき。
問題を解決せずに、自分を開き、“この瞬間”とただ出会っていく。そんな生き方から生まれるのは、あらゆるものとの「共振」。
それこそが、これから先の時代を生きていくための鍵になるのだといいます。
第1章「問題は『問題』ではない」の中から、基本的な考え方を抜き出してみましょう。
問題にエネルギーを注ぐと、燃え上がるだけ
自分がなにをしたらいいのかわからなくなったとき、大切なのは「なにもしない」こと。なぜなら、来るべきときが来たら、物事は動くものだから。
したがって、初めはちょっとぎこちないかもしれないけれど、なにもしないでいることが大切だというのです。そうすれば、ニュートラルな状態に戻れるということ。
人間が生きること自体、矛盾するものが出会うということ。だから、問題は起こる。何をどうしても問題は起こってしまうのです。自分に起こったことだから、「どんな問題が起こっているのだろう」と見ることは大事です。
でも、それが100パーセント。(中略) 人間の仕事は、「これとこれは、答えが出ないね」と知ることだけ。あとは、グリルに入った魚が焼けるのを待つように、時間が過ぎるのを待つしかありません。(23ページより)
魚を焼くのが下手な人は、なにかをしようとしてしまう人。魚を焼くのがうまい人は、グリルに入れたら焼けるまで火に任せるもの。
魚を焼くことができる火になれるのであれば、つまり解決する方法があるなら、グリルに入れるまでもなく、問題はとっくに解決しているはず。
だからこそ、なにもせずに待っていればいいという考え方です。(22ページより)
いやなら、逃げる
「問題から逃げるな」といわれることがあります。
しかし、逃げることも人生の重要なオプションであると著者はいいます。逃げることは、必ずしも敗北ではないというのです。
また、「現実は自分がつくっているのだから、自分を変えればいい」といわれることもあります。けれども、そんな考えからは自由になるべき。
「自分が状況をつくっている」という考えに、とらわれないことが重要だからです。自分を変えることよりも重要なのは、感覚を変えること。
「自分はこれがダメだと思うから、こういうふうに変える」 そんなしくみは、この地球にはありません。それなのに、なぜあえて、自分を変えなければいけないのでしょう。自分と、自分の感覚を、もっと離してみてください。自分の感覚なんて、季節が変わるように変わるものです。
感覚が、他から持ち込まれた考えによって、こり固まってしまうことに気づいてください。その考えがどんなに立派でも、どんなに偉い人が言ったことだとしても、それがすべてだと受け入れるのはやめましょう。(25ページより)
「ごめん、逃げる」と逃げてOKだし、したいことがなかったら、なにもしなくていい。
興味があることが出てきたら、そのときやってみればいいということです。(24ページより)
本当に困るまでは「解決ゲーム」に参加しない
「逃げろといわれても食べていかなければならないし、仕事からは逃げられない」と考えたとしても不思議ではありません。
しかし、それもひとつの大きな妄想なのだと著者。発想が逆になっているというのです。
人は生きていると、「自然に」なにかをやるもの。ところが生きるエネルギーがなくなってくると、「なにかをしないと生きていけない」「仕事しなきゃ」と考え始めることになります。
そこに問題があるというのです。
病気になった時は、「しょうがない」とあきらめますよね。他のことは何もせずに、体を治すことに専念します。心が疲弊した時も、大事なのは何もしないことです。
そのほうが、結局はやる気が出ます。そして、周囲の状況も、人との出会いも変わります。(26ページより)
無責任だと感じるかもしれませんが、もしも本当に困ったとしたら、なんとかやっていくものでもあるはず。
「本当に困る手前の自分」が、思考によって“解決ゲーム”に参加しようとするから、状況も自分自身もごちゃごちゃになってしまうわけです。
もし自分の範疇外のことが起こったとしたら、怖いと感じるかもしれません。
しかしそれでも、「起こっていることは悪くない」と捉えることが大切なのだといいます。(26ページより)
著者は、古代から伝わる「タオ」の教えを現代に伝えているという人物。ちなみにタオとは、古代中国の賢人たちが長い年月をかけて発見した原理原則のこと。
そんなバックグラウンドがあるだけに、スピリチュアルな指向性は読者を選ぶことになるかもしれません。
とはいえ誰にでも無理なく読める内容であり、そのアプローチはいたってシンプル。
楽な気持ちで読んでみれば、日常を楽にするシンプルな考え方、生き方を吸収することができるはずです。
Photo: 印南敦史
Source: フォレスト出版