怖すぎてトラウマ必至! 話題のミステリ作家・櫛木理宇が選ぶ、実話の「異常殺人者」を描く作品5選!!

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虜囚の犬 = THE DOG OF PRISONER

『虜囚の犬 = THE DOG OF PRISONER』

著者
櫛木, 理宇, 1972-
出版社
KADOKAWA
ISBN
9784041092958
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

怖すぎてトラウマ必至! 話題のミステリ作家・櫛木理宇が選ぶ、実話の「異常殺人者」を描く作品5選!!

[文] カドブン

“異常な欲求”を持ち、連続殺人を犯すシリアルキラー。話題作『虜囚の犬』は、 女性たちを「犬」として監禁した男を描いたミステリです。男はシリアルキラーなのか、それとも……。カドブンの連載時から話題をさらっていた本作の著者・櫛木理宇さんに、怖いけど惹きこまれる実在のシリアルキラー作品についてうかがいました。

■『虜囚の犬』とは?

元家裁調査官の白石洛が、友人の刑事から、ある事件の相談を持ち掛けられるところから物語は始まります。その事件とは、白石がかつての仕事で出会った少年・薩摩治郎が、7年後に安ホテルで死体となって発見されたというもの。しかし警察が治郎の自宅を訪ねると、そこには鎖につながれ、やせ細った女性の姿が。治郎は女性たちを監禁、虐待し、その死後は「肉」として他の女性に与えていたというのです……。「史上最悪の監禁犯」の心理と謎を追う、怒濤の展開が待ち受けるミステリー作品です。

■異常人格博覧会のような本

――櫛木さんは、『虜囚の犬』でシリアルキラーを描いていますね。そのような作品を書かれた櫛木さんが“怖いけど惹きこまれる”おすすめのノンフィクションを紹介してくださるということで楽しみです。1冊目は何でしょう?

櫛木:『現代殺人百科』(コリン・ウィルソン、ドナルド・シーマン著 青土社)です。シリアルキラー本の王道中の王道ですね。有名な殺人者も、そうでない殺人者も網羅してある異常人格博覧会のような本です。

怖すぎてトラウマ必至! 話題のミステリ作家・櫛木理宇が選ぶ、実話の「異常殺...
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――櫛木さんがシリアルキラー本を読むようになったのはそもそもいつ頃ですか?

櫛木:まさにこの本がきっかけだったんですけど、三十代はじめくらいでした。インフルエンザで高熱を出したとき、たまたま買ったばかりのこの本が部屋に積んであったんです。読み始めたら止まらなくなって、高熱でもうろうとしながら夢中で読みました。それからシリアルキラーにハマって、専門サイトまでつくってしまったんですよ。

――なんと! 転機になった1冊でもあるんですね。

櫛木:この本が好きな方は『虜囚の犬』も面白く読んでくれるんじゃないかと思います。

■シリアルキラー入門にはこの1冊!

櫛木:次は『世界殺人鬼百選』(ガース柳下著 ぶんか社)。これもシリアルキラー満載の本なんですが、もっとくだけた読み物です。

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櫛木:この書籍は、イラストが多くて読みやすい。それも描き手の人選がマニアックなんですよ。根本敬氏のマーク・チャップマンとか岡崎京子氏のカップル殺人鬼、故ナンシー関氏のテッド・バンディ、故ねこぢる氏の切り裂きジャックなどなど。漫画好きの方も喜んでくれる豪華な本だと思います。コミカルな味があって、殺人の描写もさらっとしている。入門編にいいかもしれません。

――ゲイリー・ハイドニクのエピソードは『虜囚の犬』を思わせますね。

櫛木:そうなんです、まさにその犯罪を『虜囚の犬』のモチーフとして使っています。女性を何人も地下室に監禁して、ドッグフードを食べさせていた。しかもそのドッグフードの中に……というところまでをモデルにしています。ほかはまったく違いますけど。

■日本人には珍しいタイプを読み解く

――『虜囚の犬』の監禁犯と比較してみたくなりました。次はどの本にしましょう。

櫛木:『宅間守 精神鑑定書』(岡江晃著 亜紀書房)です。2001年に池田小事件を起こし、死刑になった宅間守の精神鑑定を通して、彼の生い立ちや人格を読み解く1冊です。

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 宅間守は期間を空けて連続的に殺していくシリアルキラーじゃなくて、1度に大量殺人を行ったマス・マーダラーなんですが、異常人格殺人者の典型だと思うんです。でも、日本人には珍しいタイプ。日本の殺人者って、ウェットなタイプが多くて、個人的な恨みで殺すのがほとんどです。宅間のように全方位に対して憎しみを抱くタイプは珍しい。

――犯罪歴がすごいですね。理不尽な犯罪を何度も繰り返していて、一切反省しない。

櫛木:小学生の頃から、すべてのものが嫌いだ、と攻撃欲をまんべんなく発揮するんですよ。それを詳細に書いた本ということで価値がある。日本の犯罪史においても重要な本だと思います。

■入手困難な幻の1冊

櫛木:『贖罪のアナグラム』(蜂巣敦編 パロル舎)は1988年から89年にかけて幼女連続殺人事件を起こし、やはり死刑になった宮崎勤について詳細に調べ、評したルポ本です。とっくに絶版だと思うので、いまは入手困難な本ですね。

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――1990年の刊行ですが、リアルタイムで読んだんですか?

櫛木:はい、そうです。『宅間守 精神鑑定書』と並ぶくらい、宮崎勤について事細かに資料を集めて書いています。中でも、宮崎がマスコミに「今田勇子」っていう女性の名前で送った犯行声明文が全文載っているんですよ。

――資料的価値が高い! 宮崎勤によって、オタク像がかたちづくられましたよね。現実と虚構の区別がつかなくなったのでは? と論じられました。

櫛木:宮崎自身、本をつくってコミケに出たりしていたので、創作の端くれみたいなことはできたんですよね。でもあまり出来がよさそうじゃない。今田勇子の犯行声明文も出来が悪いんですよ。女性になりきって書いているんですけど、完成度が低い。

 当時の捜査員にも突っ込まれてるんですけど、被害者の女児が穿いている下着のことを「しわくちゃパンティー」と何度も書いているんですよね。女児の性的なことにこだわるのって女性じゃありえないじゃないですか。でも、彼は気づかないんですよ。その妄想の出来の悪さも含めて興味深いですね。

■死刑囚の「人生最後の食事」本

――最後の1冊は『死刑囚 最後の晩餐』(タイ・トレッドウェル、ミッシェル・バーノン著 筑摩書房)です。

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櫛木:「地球最後の日に何を食べたい?」と訊く番組が昔ありましたが、こちらはリアルに「人生最後の日に自分が食べるものを選んだ」人たちの本です。いままでの本に比べるとかわいく感じますね。食べたメニューが書いてあって、イラストになっているんです。ベジタリアンの殺人者もけっこういて。犯行の内容と一致してない(笑)。死刑執行の前の晩なんて、食事がノドを通らないんじゃないかと思うんですけど、けっこうみんな希望を出してますね。

――この本で初めて知ったんですが、アメリカの死刑囚は、執行前夜に好きな食べ物を注文できるんですね。

櫛木:そうなんです。日本では死刑執行するその朝に房の前に刑務官が来て、執行を告げるから、ありえないですけど。

――ごちそうといっても、ステーキとハンバーガーが多いところがアメリカン(笑)。

櫛木:リクエストでいちばん多いのがハンバーガーらしいです。何も要望を言わないと、ステーキが出てくる。有名な殺人者もいるので、この人がこういう食事を頼むのか、というのが興味深いですね。

 面白いと思ったのがテッド・バンディ。シリアルキラーの代名詞のような有名人ですが、彼はショーマンタイプでナルシストなんです。どんな派手なものを頼むのかなと思ったら、希望を出さずに、普通のメニューでいい、と。意外でした。

■シリアルキラーが殺される『虜囚の犬』

――では、いよいよ、櫛木さんの最新作『虜囚の犬』についてお訊きします。着想はどこから?

櫛木:さっきも話に出てきたゲイリー・ハイドニクの事件です。いつかモチーフに使いたいと思っていました。ストーリーはまったく別の展開で。

――プロローグがまさに監禁シーンで、物語に引き込まれました。

櫛木:ハイドニクは自分よりも弱い女性たちを監禁していました。彼女たちより1段上の強者の地位にいた。でも、彼の生い立ちは決して強者ではなく、いじめられたり、父親に虐待されたりしていた。事件に関わった人の中に強者はいるのか? と思ったのがきっかけです。

――主人公は白石洛。元家裁調査官で、心に傷を負っている男性です。

櫛木:プロローグがものすごく残酷なので、その後もずっと陰惨な場面が続くと、読者が疲れるかな、と。そこで、白石のような男性を主人公にすることで、彼のパートをほのぼのさせたかったんです。それで、白石を専業主夫という設定にして、家事をさせた。さらに和井田という友人の刑事を登場させて、緊張感を和らげる役割を担ってもらいました。電子書籍特典として彼らの掌編小説を書いたので、そちらもぜひお読みください(笑)。

――ハラハラドキドキした後で、ほっとできそうですね(笑)。『虜囚の犬』のストーリーでは、監禁犯を見つける話かなと予想して読み進めると、監禁犯が殺されてしまうという意外な展開になっていきます。

櫛木:監禁犯を捜すのではなく、監禁犯を殺した犯人を捜す。探偵役も、刑事ではなく、かつてその監禁犯に関わったことがある元家裁調査官。かなり変則的なんですよ。

――すでに亡くなっている監禁犯はどのような人物だったのか。その人物像を探るために家族にフォーカスしていきます。

櫛木:私は、シリアルキラーの生い立ちに興味があるんです。シリアルキラーのサイトを持っていたときも、必ず生い立ちから調べていました。

『虜囚の犬』でいえば、監禁犯と目される薩摩治郎、その父の伊知郎など、生い立ちの部分にフォーカスしたいんです。人格がどうやって形成されていったかを書きたかった。

櫛木:読者も白石と一緒に、治郎の家族を分析的に見ていこうとするんですけど、どうしても解けない謎がある。そこに、海斗と未尋というまったく無関係に思える中学生二人が出てきて彼らの物語が始まります。

櫛木:読者も白石と一緒に、治郎の家族を分析的に見ていこうとするんですけど、どうしても解けない謎がある。そこに、海斗と未尋というまったく無関係に思える中学生二人が出てきて彼らの物語が始まります。

――白石が、事件に関わっている人たちが「自己肯定感の低い人間ばかりだ」と指摘する場面があってゾッとしました。

櫛木:この小説にはサイコパスみたいな「私なんにも気にしません」という人は出てこないんです。自己評価が低い、劣等感のかたまりのような人たちばかり。日本の犯罪はウェットだって言いましたけど、まさにウェットな犯罪なんです。

――シリアルキラーはなぜ女性を監禁し、そしてなぜ殺されたのか。『虜囚の犬』と櫛木さんおすすめのシリアルキラー本を、ぜひ多くの読者に楽しんでいただきたいです。今日はありがとうございました。

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本文のためし読みも公開中です!
▶ためし読み第1話

取材・文:タカザワ ケンジ

KADOKAWA カドブン
2020年7月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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