清水潔がシベリア鉄道で再発見した、知られざる日本近代史

インタビュー

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鉄路の果てに

『鉄路の果てに』

著者
清水 潔 [著]
出版社
マガジンハウス
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784838730971
発売日
2020/05/21
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

清水潔がシベリア鉄道で再発見した、知られざる日本近代史

[文] カドブン

『桶川ストーカー殺人事件』『殺人犯はそこにいる』『「南京事件」を調査せよ』など、話題作を発表し続けている著者の、最新ノンフィクションが早くも注目を集めています。先の大戦で兵士として中国へと渡り、戦後はシベリアで抑留されていた亡き父の足跡を辿りながら、日本近現代史を解きほぐした、今年必読の一冊です。「知ろうとしないことは、罪」と語る調査報道のレジェンドに話を訊きました。

――前作に引き続いて、戦争に絡んだ日本近現代史がテーマです。特に今回は、鉄道聯隊の兵士として召集されたのち、シベリア抑留という凄絶な経験をされた亡きお父様の戦争体験を、清水さんご自身が鉄道の旅のなかで追体験する、というユニークなルポルタージュです。

清水:これまでの仕事で戦争に関することはかなり調べてきたにもかかわらず、父の戦争体験については充分に聞けていませんでした。中国やシベリアに行ったこと等を断片的に聞いたことはあったのですが、父も他の戦地経験者と同様、戦争については口が重かったので。

 それがある日、実家の整理をしていると、父の遺品のなかに『シベリアの悪夢』という本を見つけたんです。開いてみると中の地図に赤ペンで導線が足されている。父の大陸での足跡なんですね。さらに、数枚のメモ用紙も貼り付けてあった。そこに、父の筆跡で「だまされた」とあったんです。

 父は何に「だまされた」んだろう、どんな思いでこの道程を進んだんだろう、そんな疑問が湧き起こりました。その赤い導線を辿れば、なにか見えてくるものがあるかもしれない。そう思って旅に出たんです。

 それに鉄道好きとしては、前々からシベリア鉄道に一度は乗ってみたいと思っていたので。

――同道された、青木センセイ(小説家・青木俊氏)との珍道中も読みどころですよね。特に中露国境で国境警備隊から謂れのない詮議を受けた上、出発まで八時間も待たされるくだりはユーモラスで面白かったです。しかもその「八時間」に、かつての日本の事情が大きく関わっていることが明らかにされていて、とても驚きました。私たちも知らないことがまだまだ多いな、と。

清水:「八時間」という待ち時間については、中露間でレール幅が異なるために生じるのですが、これもなぜだろう、と調べていくと日露戦争以後の日本の事情に遠因していたことが分かったんです。

 今回は旅をしながら、遡るように近現代史について調べ、考えてみました。

 なぜ東京は、あの戦争で焦土と化したのか? なぜ真珠湾攻撃は、満州事変は、柳条湖事件は起こったのか? そんなふうに、なぜ、なぜ、と疑問に対して自分なりに調べていくと、日露戦争、さらには日清戦争にまで遡ることになった。これらはすべて繋がっていて断ち切れないんだと実感しました。

――かつて大陸に進出したことが廻りまわって自分たちに跳ね返ってきた、ということですね。国家は何度でもそうした過ちを繰り返すのでしょうか?

清水:いくつかの戦争を並列してみると見えてくるものがあります。

 たとえば、他国への軍の派兵理由。ほとんどが「国際貢献」か「自国民保護」の二つなんですね。他国に兵を送り込むというのは余程のことですから、他に正当な理由なんて見つけられないんです。だから、戦争の端緒は大半がこの二つと言っていい。

 今の日本はまたその道に進みつつありますよね。やはり同じ過ちを繰り返そうとしている。近現代史はそのことを私たちに教えてくれるのです。

――事件モノと戦争モノでは対象への姿勢や書き方に違いはありますか?

清水:私のなかで違いはありません。分からないことがあれば、可能な限り事実に近づきたいと思っているだけです。

 今回は、犯人を暴き出すというような派手な展開はありませんが、やっていることは同じです。現場に出向き、分からないことをひとつひとつ自分の手で調べていく。それが調査報道です。

――本書の最後、「知ろうとしないことは、罪だ」という一文に背筋の伸びる思いでした。

清水:知らないことが罪ではありません。知らないことがあるのは当然です。ただ、知ろうともしないというのは怠惰なんじゃないか、と。そうでなければ、未来に正しい選択ができなくなりますから。

――今後の予定を聞かせて下さい。

清水:この本を書き終えてみて、「戦争のはじまり」について、私自身が知らないことや、また一般に知られていないことがまだまだ沢山あると痛感しました。その辺りをさらに深掘りしたものをすでに書きはじめています。他にも、皆さんに驚いていただけるような企画も構想中ですので、楽しみにしていただけると嬉しいです。

取材・文:編集部

KADOKAWA カドブン
2020年7月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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