『精神科医が教える ストレスフリー超大全』
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仕事が楽しくないときはどうすればいい? ストレスとの適度なつきあい方
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
日常生活はストレスフル。そのため、「ストレスをゼロにしたい」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし精神科医である『精神科医が教える ストレスフリー超大全 ―― 人生のあらゆる「悩み・不安・疲れ」をなくすためのリスト』(樺沢紫苑 著、ダイヤモンド社)の著者によれば、ストレスがゼロになると、それはそれで大変なのだそうです。
たとえば大事な商談やプレゼンがあったとしたら、プレッシャーや緊張を感じてストレスが発生することでしょう。
でも、そのストレスのおかげで、いろいろなことを調べて準備し、練習するわけです。その結果、スキルは向上して自己成長につながります。
人間関係のストレスにしても同じ。それを解消するために自分の性格や言動を見なおし、相手の気持ちを考え、人間関係を改善しようとするため、人間的な成長につながっていくのです。
いわば、こうした日々のストレスは「いいストレス。適度なストレスは脳の働きを活性化し、集中力を研ぎ澄まし、記憶力を高めるということ。
つまりストレスは「あっていい」というのです。
とはいえ、過剰なストレスを感じ続けるのはやはり危険。ストレスを溜め込みすぎると、体調を崩したり、うつなどのメンタル疾患につながるからです。
では、なにを基準にすればいいのか。それは、
① 「寝ているときにストレスがない状態になっている」ということ。
② 「次の日にストレスや疲れが持ち越されていない」ということ。
(「はじめに──『ストレスフリーな人』になろう──」より)
この2つなのだそうです。
そして重要なポイントは、「考え方」「受け止め方」を少し変えるだけで、ストレスをしなやかに受け流せるようになるということ。
そこで、「人間関係」「プライベート」「仕事」「健康」「メンタル」という5つのテーマに対し、「科学的なファクト」と「いますぐできるTo Do」を示した本書が役立つわけです。
きょうは「仕事」に焦点を当てた3章「『やらされ仕事』から抜け出す」のなかから、「『仕事が楽しくない』を乗り越える方法」をご紹介したいと思います。
ファクト①「仕事が楽しくない」のは当たり前
入社数年目で、「仕事が楽しくてしょうがない。こんな楽しい毎日が一生続くとしたら幸せだ」と感じている人は、まずいないのではないでしょうか。
新しい仕事を次々と覚えていく大変さ、上司や同僚との人間関係の難しさなど、苦労は絶えないはず。
知らないことが山ほどあり、そこについていくのに精一杯なので、楽しいはずがないのです。
どんな職業であれ、仕事をひととおり覚えるまでの期間は修行の時期だということです。(150ページより)
ファクト②守破離を理解する
著者はここで、学びのステージを示す「守破離(守針)」ということばを紹介しています。「守破離」とは、日本の茶道、武道、芸術などにおける「学び」の姿勢を示すもの。
学問であれビジネスであれスポーツであれ、すべての「学び」を効率よく所得する基本原則だといいます。
「守」は、型を守る。師に付いて流儀を習い、その流儀を守って励むこと。
「破」は、型を破る。師に学んだ流儀を極めた後に他流を研究すること。
「離」は、型を離れる。自己の探究を集大成し、独自の境地を拓いて一流を編み出すことです。これを会社の仕事に当てはめると次のようになります。
「守」は、仕事の基本。ビジネスマンの基本を覚える。習った仕事を基本通り実行する。言われたことを言われたとおりやる。「破」は、先輩の上手なやり方をマネる。本を読んで、習った以外のことを勉強する。
新しい仕事、やったことのない難しい仕事に挑戦する。 「離」は、習ったやり方を発展、応用して、自己流のやり方を工夫する。自分で判断し、自分で決断する。自分から提案したりアイデアを出したりする。(151ページより)
仕事の基本ができていない状態で、難しい仕事を任されたところで、できるはずがないというのです。(150ページより)
To Do①さっさと基本を卒業しよう
すべての学びにおいて、基本を淡々と行う「守」は楽しくなく、つらいもの。おもしろくなってくるのは、「破」や「離」の段階に進んで、仕事を任され、自分の判断やアイデアを活かせるようになってから。
つまり、「楽しい」という感情を得るまでには時間がかかるわけです。
会社や職種によっても異なるとはいえ、この「守」のステージで基本を学ぶのには通常3年はかかるもの。
医者のような専門職だと5年、伝統工芸の職人なら10年以上かかるかもしれません。
したがって一刻も早く「基本」を完全に身につけ、次のステージに進むべきなのです。(152ページより)
To Do②「工夫」の追加で仕事は楽しくなる
「守」とは、「いわれたことをいわれたとおりにやる」「習ったことを習ったとおりにやる」ということ。
武術やスポーツでは、とにかく基本に習熟するまでは、自己流のアレンジをすることは許されません。しかし仕事の場合は最低限の基本を学んだら、自発的に勉強してもいいでしょうし、創意工夫が求められもします。
「わからないことを先輩に聞く」 「先輩の仕事のやり方を徹底的に研究する」 「本を読んで勉強する」 「自分なら将来、どうするだろうとイメージする」 (153ページより)
仕事の基本を身につけている途中でも、いまからできる「学びの工夫」は必ずあるもの。たとえば入社1年目だったとしても、創意工夫という「破」のエッセンスを積極的に取り入れるべきだということです。
自分なりの工夫を加えていくことで、初めて仕事の楽しさが生まれてくるわけです。
「やらされ感」は地獄で、「自発性」こそ天国だと著者は主張しています。
いまの仕事のなかに「工夫」や「応用」を自分で盛り込んでいくことで、「楽しくない仕事」「つまらない仕事」に「楽しさ」を追加すべきだという考え方です。(152ページより)
本書で著者は精神科医としての経験から、現実的であり、そして効果のあるノウハウだけを紹介しているそうです。
コロナ禍も影響して不安やストレスから逃れにくい状況にあるからこそ、著者のことばを信じてみるべきではないでしょうか?
Photo: 印南敦史
Source: ダイヤモンド社