『幻想蒸気船』
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<東北の本棚>あの世に通じる幽霊船
[レビュアー] 河北新報
21世紀の日本に、今なお鎖国を続ける場所がある。その名は奇妙島。あの世とこの世の間にある不思議な島を舞台にしたファンタジー小説だ。
両親を亡くし、天涯孤独となった主人公ツムギは、突然現れた三五兵衛と名乗る男から自分が奇妙島の後継者だと知らされる。両親は島の出身で、ツムギに幼い頃から取りついている子ダヌキの赤殿中も島に生きる妖怪の仲間だという。
三五兵衛の口利きでフェリー会社「浦島汽船」で働くことになったツムギは、不思議な光景を目にする。浦島湾沿いの港を結ぶフェリーのほか、会社が所有する幽霊船サスケハナ号は、なんと幕末の黒船。歴史上の人物ペリーが艦長として亡くなった人々をあの世に送り届けていたのだ。
ひょんなことから、奇妙島から逃げてきたいとこの元弥をサスケハナ号で送り届けることになったツムギと赤殿中。江戸の文化が息づく島で、統治者である伯母お由良や現代文明に強く憧れる町医者の玄庵に出会い、鎖国派と開国派の権力争いに巻き込まれてしまう。
混乱の中、統治者の血が騒ぐのかお由良と三五兵衛の恋を取り持ち、この世とあの世を結ぶ門外不出の文書「輪廻転生帖」を守ろうと奔走するツムギ。幻想と現(うつつ)の間を駆け抜ける姿がテンポよく描かれる。相棒の赤殿中や欲深い人間に罰を与える大妖怪の鵺(ぬえ)、おせっかいな一つ目の青坊主など異形の者たちが小気味よく動き回り、物語を盛り上げる。権力争いの後、ツムギが選んだ道に納得させられる。
著者は1964年青森市生まれ。2006年、「闇鏡」で第18回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞しデビュー。「幻想」シリーズをはじめ著書多数。(長)
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講談社03(5395)5817=715円。