『虜囚の犬』
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実録調にホラー趣向まで加わって連鎖する猟奇殺人劇の驚きの顛末
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
櫛木理宇というと、一三〇万部突破の学園ホラー『ホーンテッド・キャンパス』のシリーズがまず思い浮かぶが、だからといってホラー専門というわけではない。この作家にはもうひとつ武器があって、それが冤罪等をテーマにした実録調の犯罪小説。本書も異様な犯罪劇の顛末を描いたサスペンス長篇だ。
白石洛(らく)はキャリアウーマンの妹・果子(かこ)と同居する「専業主夫」。三年前までは家裁調査官だったが、ある事件をきっかけに退職した。四月のある日、旧友の茨城県警捜査一課巡査部長・和井田瑛一郎が訪れ、七年前洛が担当した薩摩治郎という青年が水戸市内の安ホテルで刺殺されたという。七年前、治郎は学校でイジメられ、恐喝の見張り中に仲間の起こした事件に巻き込まれつかまったのだ。彼は一見おとなしい高二男子だったが、家庭にも問題があった。
事件後は自宅に引きこもっていたが、警察が訪ねたところ、広大な屋敷の離れで監禁されていた女性を発見。彼女の証言から、さらに庭に埋められた女性二人の遺体が見つかる。七年の間、治郎に何があったのか、洛はリハビリ中の身に鞭打って単独調査を始めるが……。
暴力事件でトラウマを背負った元家裁調査官といい、彼がかつて担当した青年をめぐって起きる猟奇殺人の連鎖といい、まさに読んでいて不愉快になるイヤミス調の展開だ。次第に明らかになる、支配欲の塊のような薩摩家の父親。薩摩家は“犬神持ち”だったといい、治郎も「ぼくは犬だ」と自分を卑下していた。
ホラー趣向まで持ち込んで、これでもかこれでもかと押してくる櫛木流が強烈。中盤からは、やはり家庭に問題を抱えた中三男子・國広海斗が登場、新たな闇のドラマが加味される。といっても、ただイヤな話がつながっていくわけではない。帯の惹句の「どんでん返し」に要注意。後味もけして悪くない、一気読み必至のエンタテインメントだ。