熟女系の癒しを提供し続けた成人漫画誌もついに休刊号

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熟女系の癒しを提供し続けた成人漫画誌もついに休刊号

[レビュアー] 都築響一(編集者)


『劇画ローレンス 7月号』劇画ローレンス編集部

 エロ、というより「艶笑」ぐらいがふさわしい『劇画ローレンス』がこの7月号をもって休刊。38年間、通巻411号の歴史に幕を下ろした。1983年に『漫画ローレンス』として創刊、『アラビアのロレンス』にあやかっての命名だったという。

 当時は成人漫画がどんどん若者寄りに(つまり少女寄りに)過激化し、規制が強化された時代。そういう状況にローレンスは創刊号の表紙に「いまなぜ、人妻なのか!」とコピーを掲げて参戦。ほっこりやさしい熟女系の癒しを前面に押し出して、いろいろ疲れが溜まったオトナの読者を漫画誌に引き戻したのだった。

 休刊と聞いて久しぶりに買ってみると、ローレンスの漫画は……10年前、20年前とぜんぜん変わってない! おもしろいかと言えば微妙だが、つまらなくて投げ出すほどでもない。性的興奮は皆無だけど、「いまだに!」みたいな苦笑微笑はある。その恐るべき安定感は平日昼下がりに見る「水戸黄門」のような、うますぎもまずすぎもしないチェーン居酒屋のお通しのような、ぬるま湯の心地よさであって、熱すぎる銭湯にもサウナの水風呂にもない、「安心」という小さな極楽だ。

 ローレンスを含む多くの成人漫画誌にとどめを刺したのは、2019年の大手コンビニの販売規制だった。いま成人漫画誌は書店の18禁コーナーか通販で買うしかないが、そのほとんどがアニメ系の美少女ハードエロで、ローレンスの目指したオトナのほっこりエロは皆無。

 一般誌でも『アサヒカメラ』など年配の読者層に支えられてきた老舗雑誌の休刊が目立つようになった。大衆居酒屋や立ち飲み酒場やスナック、ストリップ劇場までも勇敢な女子たちの進出に押されて、さびしんぼうのおとうさんたちが、安息の場を次々と失いつつある哀しみの季節。ま、おかあさんたちはものすごく元気ですけど。

新潮社 週刊新潮
2020年7月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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